関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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2020年度(令和2年度) 声明

18歳,19歳に対する少年法「改正」に反対する理事長声明

  1. 1 はじめに
     2020年7月30日,成人年齢の引き下げに合わせ少年法で保護する対象年齢を18歳未満に引き下げるべきかどうかを検討していた自由民主党と公明党の作業チームが「18歳と19歳は少年法の適用対象とする」等とする方針をまとめ,「少年法のあり方についての与党PT合意(基本的な考え方)」(以下「与党PT合意」という。)を出した。その後の同年9月9日,法制審議会少年法・刑事法(少年年齢・犯罪者処遇関係)部会(以下「法制審議会」という。)は,「取りまとめ」(答申案)(以下「答申案」という。)を採択した。
     与党PT合意及び答申案は,18歳と19歳を少年法の適用対象とするか否かに違いはあるものの,いずれも18歳と19歳について厳罰化した制度を前提としている。
  2. 2 立法事実がないこと
     前記のとおり,与党PT合意及び答申案は,成人年齢の引き下げを契機に検討されたものであるが,法律はそれぞれの目的に基づいて検討されるものであり,少年法の適用年齢を民法上の成人年齢等と一致させる理論的必要はない。
     そして,現行少年法が有効に機能していることは法制審議会も認めており,国際的にも,国連子どもの権利委員会の子どもの権利条約の一般的意見24号において「32 委員会は,一般的規則として又は例外としてのいずれであるかにかかわらず,少年司法制度を18歳以上の者に適用可能としている締約国を称賛する。このアプローチは,脳の発達は20代前半まで続くという発達上,脳科学上のエビデンスに合致するものである。」と高く評価されており,そもそも少年法の適用年齢を引下げたり,18歳と19歳について厳罰化する立法事実は存しない。
  3. 3 少年法「改正」の問題点
     そもそも,少年法は,子どもは変わる力を持っていること(可塑性)を大切にし,子どもが失敗しながら成長していく成長発達権を保障している。少年法の根底には,非行は「社会を写す鏡」であるという考えがある。少年は社会の影響を受けやすく,貧困や差別,虐待等の被害体験がケアされないなかで,何らかの契機があって非行に至ることが多いからである。非行は社会の問題であり,少年だけに責任を帰責すべきではない。子どもが失敗しながら成長できる権利は,子ども自身にとっても,社会にとっても重要である。
     少年法「改正」の立法事実がないうえ,上記少年法の目的は18歳と19歳にも妥当するから,与党PT合意及び答申案には以下の点で問題点が存すると言わざるを得ない。
    • (1) 厳罰化
       いわゆる「原則逆送」の対象事件を短期1年以上に拡大することは問題である。現行少年法における「短期1年以上」の非行の多くは現状保護処分とされている。「改正」された場合,その多くが逆送されることが予想される。
       現行少年法は第1条の「健全育成」を目的として,少年が抱える要保護性を丁寧に調査,検討した上で,その健全育成に必要な処遇を少年ごとに個別に選択することで,有効な機能を発揮してきた。しかし,「改正」された場合,行為責任の考えに基づき処分を決定することになり,それを前提とした家庭裁判所調査官の調査が行われることになる。行為責任により処分を決めることは,少年法の理念に反し,厳罰化するものである。
    • (2) 推知報道禁止(少年法第61条)の解除
       推知報道が解除されれば,SNS等を通じて容易に拡散され,インターネット上に永久的に残り続けることになる。18歳,19歳は高校生,大学生等の年齢であり,学校は他の生徒,学生の保護等を理由に少年を退学させることが容易に想定される。これは少年の勤務先においても同様である。このように推知報道禁止の解除は少年の更生を困難にする。
    • (3) 更生のための特別規定(少年法第60条)は適用しない
       現行少年法では,推知報道禁止の他,少年の更生を図るため,刑事手続においても,資格制限の特例や不定期刑など刑罰に関する特例を設けている。しかし,答申案では,禁止を解除する推知報道同様,起訴後に関する刑事事件の特則の適用はないとしている。
    • (4) 外国籍少年の入管法上の退去強制規定について議論なし
       外国籍少年の問題については,これまで全く議論されていない。統計上,外国籍少年の非行件数は極めて少ないが,外国籍少年特有の問題があり,法務省の法務総合研究所では在留資格を含めた研究が行われているうえ,少年院においても外国籍少年に配慮した取り組みを行っている。
       この点は,少年法と出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)は密接に関連している。入管法は,退去強制事由につき,成人については「無期又は一年を超える懲役若しくは禁錮に処せられた者。ただし,執行猶予の言渡しを受けた者を除く。」(24条4号リ)と規定する一方,少年については保護処分がされた場合,それだけでは退去強制事由に該当せず,刑事処分について「長期3年を超える懲役又は禁固に処せられた者」(同号ト)と規定している。これは,少年法が,少年は「一般に未成熟で,可塑性に富むことにかんがみ,少年の健全な育成のためには,現在及び将来に様々な不利益をもたらす刑罰によって成人に対するのと同様にその責任を追及するよりも,教育的手段によって改善,更正を図るべきであるとの理念」(最判平成9年9月18日)を持つことを尊重していることに鑑み,入管法もまたこの少年法の理念に沿って,教育的手段による処遇である保護処分や長期3年以下の刑事処分を受けた少年に対しては,退去強制という少年の人生に重大な影響を与えることのないように配慮したものであると考えられる。
       「原則逆送」の対象事件が短期1年以上に拡大されると,外国籍少年は逆送により刑事罰を受け,退去強制事由に容易に該当してしまうという重大な問題がある。
       日本で育った少年を家族,言語など環境の十分でない国籍国に退去強制することは非人道的であり,少年法の理念にのっとり日本でやり直す機会が保障されるべきであり,少年法の「改正」にあたっては外国籍少年に与える影響について十分な議論がなされるべきである。
  4. 4 さいごに
     当連合会は,18歳及び19歳の者が現行少年法の適用を受け,国籍を問わず,日本で生活するすべての少年が失敗しても,そこから学びながら成長していく権利を保障する少年法の理念を没却する与党PT合意及び答申案が示す法改正に強く反対する。

2020年(令和2年)10月26日
関東弁護士会連合会
理事長 伊藤 茂昭

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