関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2020年度(令和2年度) 声明

東日本大震災・福島第一原子力発電所事故から10年を迎えるにあたっての声明

 平成23年3月11日に発生した東日本大震災及び福島第一原子力発電所事故から、節目となる10年を迎えた。あらためて犠牲者の皆様に哀悼の意を表すとともに、被災者の皆様に心よりお見舞いを申し上げる。
 発災当時、我々は、東京三弁護士会東日本大震災復旧・復興本部及び関東弁護士会連合会支援統括本部を設置し、東京都内等の大規模避難所における面接相談や、福島県・宮城県・岩手県の各被災地避難所等における出張相談を行った。また、区市町村の運営する避難所や都営住宅等の借り上げ住宅にて避難生活を継続する被災者のために、都内各地にて相談会を随時開催し、現在も定期開催を継続している。発災の約半年後より開始した原子力損害賠償・廃炉支援機構の実施する福島県内各地や東京本部事務所での個別相談会や説明会への弁護士派遣は、現在でも重要な活動の一つとして位置付け、毎月10名程度の担当弁護士の派遣を継続している。さらに、福島第一原子力発電所事故に係る損害賠償請求の代理人として原子力損害賠償紛争解決センターへのADR(裁判外紛争解決手続)申立てや訴訟提起を行ってきたほか、同センターの仲介委員や調査官としてADR和解成立に尽力してきたところである。
 令和2年12月の「東日本大震災からの復興の状況に関する報告」において、政府は「復興期間を令和2年度までの10年間と定め、復旧・復興に向けて、総力を挙げて取り組んできた。」とし、「こうした取組の結果、地震・津波被災地域においては、住まいの再建・復興まちづくりはおおむね完了し、産業・生業の再生も順調に進展しているなど、復興の総仕上げの段階に入っている。」、もしくは「福島の原子力災害被災地域においては、除染等の取組によって、空間線量率は、原発事故発生時と比べ大幅に減少している。令和2年3月までに、帰還困難区域を除く全ての地域の避難指示の解除が実現し、帰還困難区域の一部でも避難指示が先行解除されるなど、福島の復興・再生が本格的に始まっているが、今後も国が前面に立って、中長期的な対応が必要である。」等、復興の現状についてその概要を報告している。しかし、真の復興を実現するためには、住居等生活問題、損害賠償問題等、個々の被災者が抱える悩みに応じたきめ細やかな災害ケースマネジメントの観点からする施策にも注力していく必要がある。
 福島第一原子力発電所事故のかつてない甚大な被害から、未だ多くの被害者が、家族や知人を失った悲しみから立ち直りきれず、また、わが家を失い、ふるさとを失ったまま不安定な生活を送り、さらに、帰還した者も、職を失ったり地域コミュニティの喪失や変容を感じたりするなど、かつての生活を取り戻すことができないままでいるという状況にある。現在(令和2年11月11日時点)でも全国の避難者数は約4万3000人に上ることや、約1万2000人を超える被災者が福島第一原子力発電所事故に基づく損害賠償を求め全国各地の裁判所に集団提訴した損害賠償請求事件は未だ紛争が継続中であって解決に至っていない現実と真摯に向き合わなければならないであろう。
 また、福島第一原子力発電所事故に係る損害賠償請求については、「東日本大震災における原子力発電所の事故により生じた原子力損害に係る早期かつ確実な賠償を実現するための措置及び当該原子力損害に係る賠償請求権の消滅時効等の特例に関する法律」により消滅時効の期間が10年とされたものの、国は法改正による再延長はしない方針を固めている。原子力損害賠償・廃炉支援機構においても、未だ何らかの事情により損害賠償請求権の行使に困難を有する者が相当数存在するとの認識であり、また東京電力ホールディングス株式会社は「3つの誓い」の一つとして「最後の一人まで賠償貫徹」を謳っているため、消滅時効の趣旨や起算点の解釈による個別の被害者に対する損害賠償請求権の行使の支援を今後も継続していくべきであるが、これら被害者の不安を払拭するためにも、法改正による再延長が望まれる。
 福島第一原発では今後汚染水の処理や廃炉作業が進められることになるが、現行基準値を超える放射線量の漏出があってはならず、新たな風評被害対策も欠かせない。もっとも重要なことは福島県民および国民の安全安心を第一に作業を進めなければならないことである。
 ところで、東日本大震災では広範な地域で津波被害が発生した。津波被災地では復旧が進んでいるように見えるが、住民一人一人のケースマネジメントを通じて生活再建支援に取り組まなければならない。そして、多くの地域で住民の皆様によって新たな生活拠点におけるコミュニティ作りが進められているも、復興支援住宅で入居者が孤立して生活を送ることがないよう自治体等による支援継続が必要である。また、国は産業の育成・発展への支援をこれからも継続していかなければならない。
 東日本大震災は、我々弁護士にとって、自ら被災者に接してその気持ちに寄り添うといういわゆるアウトリーチの大切さを実感し、また、生活上の悩み相談や情報提供なども行うという、通常の法律相談に留まらない活動の意義を認識する大きな転機となった。そして、平時よりBCP(事業継続計画)の整備等、新たな大震災への備えを検討することの必要性を痛感させる契機となった。
 関東弁護士会連合会及び東京三弁護士会は、毎年のように全国各地で発生する地震災害、台風・豪雨災害について電話相談を中心とする支援を行うなどの活動に取り組み、今年度の感染症型災害(コロナ禍)においても、電話相談等を行うとともに、自然災害債務整理ガイドラインのコロナ禍適用特則に応じて、生活上の悩み相談や情報提供の相談態勢や登録支援専門家委嘱態勢を整えるなどの活動を行っているが、被災者・被害者の人権擁護のため、個々の被災者・被害者に寄り添いつつ、その生活再建や適切な賠償の確保のために、より一層の努力をする所存である。

 2021年(令和3年)3月11日

関東弁護士会連合会     
理事長  伊 藤 茂 昭 
東京弁護士会        
会 長  冨 田 秀 実 
第一東京弁護士会      
会 長  寺 前   隆 
第二東京弁護士会      
会 長  岡 田 理 樹 

PAGE TOP