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2020年度(令和2年度) 意見書

インターネット通信販売による定期購入契約等に関する規制強化を求める意見書

2020年(令和2年)10月20日
関東弁護士会連合会
理事長 伊藤 茂昭

第1 意見の趣旨

 国は,特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)及びその政省令において,以下の改正を行うべきである。

  1. 1 適正な表示をする義務
    • (1) 定期購入契約のインターネット広告において,「お試し」「初回〇円」等その契約内容ないし契約条件と矛盾しかねない文言を用いた表示を禁止すること
    • (2) 定期購入契約のインターネット広告において,初回分と2回目以降の契約条件を分離して表示することを禁止し,契約条件について一体的に表示することを義務付けること
    • (3) 申し込みの最終確認画面において表示される定期購入契約の内容について,初回と2回目以降の契約内容を分離して表示することを禁止し,契約内容について一体的に表示することを義務づけること
  2. 2 解約手段の確保
    1. (1) 通信販売業者に対し,解約・返品特約を定める場合には,契約申込時と同様の方法による解約申出方法を認めることを義務付けること
    2. (2) 解約申出に対し,解約申出方法の不備その他通信販売業者側の体制不備により解約申出が到達できない場合,解約申出行為から相当な時期に到達したものとみなすこと
  3. 3 画面保存義務
    • (1) 通信販売事業者に対し,インターネット広告画面(同業者が委託した者による広告含む。以下同じ。)及び申込画面を一定期間保存することを義務付けること
    • (2) 購入者が契約申し込みの過程で閲覧した広告画面及び申込画面について,購入者から開示請求があった場合に,その開示を義務付けること
  4. 4 適格消費者団体への差止権付与
    • (1) 適格消費者団体の差止請求(特商法58条の19)の対象に,誇大広告表示義務違反行為(同12条のうち省令11条4号が規定する法11条1号ないし3号までに掲げる事項)及び指示対象行為(同14条1項2号・省令16条1項1号及び2号)を含めること
    • (2) 差止請求権行使の要件である「誤認させるような表示をする行為を…行うおそれがあるとき」(特商法58条の19)に,違反行為を中止しても再開するおそれがあることが含まれることを明記すること

第2 意見の理由

  1. 1 規制強化の必要性
     昨今,インターネットを通じた通信販売(以下「インターネット通信販売」という。)において,健康食品や化粧品などの「定期購入契約」を巡る消費者トラブルが急増している ※1。定期購入契約を巡るトラブルの例としては,「ダイエット効果のあるサプリメント,お試し500円」「初回500円」などと通常価格より低価格で商品を購入できることを強調した広告で消費者を勧誘し,1回だけ低価格で試してみることができるかのような表示をするが,実際には1回のみ契約することはできず,必ず複数回分を契約することとなっており,「お試し」「初回」として表示される金額は,1回目の「金額」にすぎず,2回目以降分の各回は初回の何倍もの金額に設定されている等である。
     このような定期購入契約による被害の増加に対応するため,平成28年から平成29年にかけて,特定商取引に関する法律施行規則(以下「省令」という。)が改正され,また,消費者庁により「インターネット通販における「意に反して契約の申込みをしようとする行為」に係るガイドライン」が規定された。しかし,後述するように,これらの規制ではいまだ不十分であり,被害減少のためには,さらなる法改正が要請されるものである。
  2. ※1  定期購入契約に関する消費生活相談件数は2015年度の4141件から年々増加し,2019年度は4万4370件となっている(消費者庁「令和2年版 消費者白書」)
  3. 2 適正な表示をする義務(意見の趣旨第1項)
     定期購入契約によるトラブルの原因としては,広告表示の内容がわかりにくい,あるいは契約内容と整合していない部分が強調されることにより,消費者がその契約内容を十分に把握できないまま契約を締結してしまう,ということが大きいものと言える。
     たとえば,定期購入,すなわち複数回購入することが前提となっているにもかかわらず,「お試し」「初回〇円」といった,継続的に購入するかどうかが消費者自身で選択できるかのような誤解を促す表現が極めて強調され,他方で,定期購入であることについてはこれらの有利条件とは離れた位置に小さい文字で表示されたり,あるいは他の説明事項の中に紛れて記載される場合や,最終確認画面において初回金額について大きく枠内に表示され,総額については小さく枠外に表示する等,よほど注意深く広告や最終確認画面を確認しなければ認識できないような表示となっていることで,消費者が契約内容を十分に把握できないというものが典型である。
     しかし,現行法においては,所要事項が広告のどこかに表示されていれば,表示義務に違反していないとされる可能性があり(特商法11条,省令8条7号),また,誇大広告等の禁止にあたるためには「著しく」という不明確な要件が課されているため(特商法12条),脱法的な事業者を規制することは容易ではない。
     これらの状況からすれば,定期購入契約による消費者被害を防ぐためには,「お試し」「初回〇円」というような定期購入契約とは矛盾しかねない文言を用いた表示を禁止し,また最終確認画面においても総額代金を分かりやすく表示するなど,契約条件について一体的かつ分かりやすい表示を義務付ける必要がある。
  4. 3 解約手段の確保(意見の趣旨第2項)
     現在,通信販売業者による解約・返品に関する受付体制整備については,特段の規制はない。
     しかし,定期購入契約に関するトラブルにおいては,電話による解約のみ受け付ける旨を契約条項で定めておきながら,消費者が解約を申し出るために指定された電話番号に架電しても,一向に電話がつながらず,解約申出が受付されないという事態が散見されている。
     インターネットによる契約申込みを受け付けている以上,解約についてインターネットを通じた方法で受付することができない理由はなく,契約申込時と同様の方法による解約申出を受け付ける体制の整備を義務付けるべきである。
     また,通信販売業者側の体制不備が原因で,解約の申し出が受付されず,契約に拘束され続けるというのはいかにも不公平であり,また,解約を防ぐために意図的に受付体制を整備しないという悪質な事業者が生じるおそれも否定できない。民法97条2項は,相手方が正当な理由なく意思表示の通知を妨げた場合には,通常到達すべき時期に到達したものとみなす旨規定しており,その趣旨を明確にするためにも,通信販売業者側の体制不備により解約申出が到達できない場合には,解約申出行為から相当な時期に解約の意思表示が到達したものとみなすこととすべきである。
  5. 4 画面保存義務(意見の趣旨第3項)
     現在,通信販売業者による広告画面及び申込画面の保存義務・開示義務について定めた規制はない。
     定期購入契約のトラブルに際しては,その契約条件が広告画面や申込画面に適切に表示されていたかどうかが問題となるが,これらの画面表示は容易に変更・削除が可能であり,トラブルが発生した時点で契約時とは異なる画面表示となっている例がある。他方で,消費者の側で契約時の画面表示を保存していることはまれである。
     実際の契約場面における表示内容が確認できなければ,問題の検証ができず,消費者だけではなく通信販売業者側においてもトラブルへの対処が困難となりかねない。
     そして,画面表示の保存・開示は容易に行うことができ,これらの義務を課したとしても,通信販売業者にとって過度な負担とはならない。
     そのため,通信販売業者に対し,インターネット広告画面及び申込画面を一定期間保存することを義務づけるとともに,購入者から開示請求があった場合には,開示義務を負うものとすべきである。
     なお,実際の契約場面では,アフィリエイト広告 ※2 等通信販売業者から委託を受けた者による広告を見て購入に至る場面も多いため,これらの委託を受けた者による画面表示についてもあわせて保存・開示を義務付けるべきである。
  6. ※2  アフィリエイト広告とは,インターネットを用いた広告手法の一つである(以下,広告される商品・サービスを供給する事業者を「広告主」と,アフィリエイトサイトを運営する者を「アフィリエイター」という。)。ブログその他のウェブサイトの運営者が当該サイトに当該運営者以外の者が供給する商品・サービスのバナー広告等を掲載し,当該サイトを閲覧した者がバナー広告等をクリックしたり,バナー広告等を通じて広告主の商品・サービスを購入するなどした場合に,アフィリエイターに対して,広告主から成功報酬が支払われるものである(消費者庁「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」8頁参照)。
  7. 5 適格消費者団体への差止権付与(意見の趣旨第4項)
     現在,通信販売においては,特商法12条の誇大広告等の禁止のうち,商品の性能や権利若しくは役務の内容については適格消費者団体による差止請求権の対象とするものの,省令11条4号で定める事項(特商法11条で定める販売価格,支払い時期等)は差止請求権の対象とせず,また,顧客の意に反して契約の申し込みをさせようとする広告表示(特商法14条1項2号,省令16条1項)についても文言上差止請求権の対象としていない(特商法58条の19)。
     しかし,消費者を誤認させるような広告表示を規制するにあたり,商品の内容の優良性と販売価格等の取引条件とで区別する合理的理由はない。
     また,特商法14条1項2号及び省令16条1項に該当する電子計算機の操作が当該電子契約の申し込みとなることを当該操作を行う際に容易に認識できるように表示されていなかったり,あるいは申込内容を容易に確認し訂正できるようにしていないなどの表示についても,消費者の誤認を招き,被害の増加につながるおそれがある。
     そのため,定期購入契約に関する消費者被害が増加している状況にかんがみれば,不特定かつ多数の消費者の利益を擁護することを目的とする適格消費者団体に,これらの広告表示に対する差止請求権を認める必要が高い。
     さらに,上記のとおり,インターネット広告は,容易に変更,削除が可能であり,一時的に差止対象行為を中止したととしても,すぐに再開することが可能である。このようなインターネット広告の特性にかんがみれば,差止請求権行使の要件である「誤認させるような表示をする行為を…行うおそれがあるとき」(特商法58条の19)に,違反行為を中止しても再開するおそれがあることが含まれることを明確化しておく必要性もある。
     以上から,適格消費者団体の差止対象行為の中に,特商法12条のうち,省令11条4号で定める事項(特商法11条1号ないし3号に掲げる販売価格,支払い時期等の契約条件)に関する広告表示や,特商法14条1項2号・省令16条1項1号及び2号で定める消費者の誤認を招く広告表示についても含めるべきである。そして,あわせて,「誤認させるような表示をする行為を…行うおそれがあるとき」(特商法58条の19)に,違反行為を中止しても再開するおそれがあることが含まれることを明記すべきである。

以上

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