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2020年度(令和2年度) 意見書

インターネット(スマートフォン利用を含む)でMNP手続および携帯電話の回線契約解除のいずれもできることを携帯電話事業者各社に義務づける法制度の整備を求める意見書

2020年(令和2年)12月25日
関東弁護士会連合会
理事長 伊藤 茂昭

第1 意見の趣旨

 国に,電気通信役務の提供に関する契約をした者すべてにつき,インターネットを利用してMNP予約番号発行手続および電気通信役務の提供に関する契約の解約手続(以下「解約手続」という。)を完結できるようにすること,ならびに契約者がスマートフォンを使用する電気通信役務の提供に関する契約を締結している場合にはその契約者所有のスマートフォンを利用してMNP予約番号発行手続および解約手続を完結できるようにすること,いずれについても行える状態にすることを携帯電話各社に義務づける法制度を整備することを求める。

第2 意見の理由

  1. 1 携帯電話事業者各社では電気通信役務の提供に関する契約(いわゆる携帯電話の回線契約)の新規契約手続をインターネット上で行うことができること
     現時点においても,携帯電話事業者各社では,インターネット上で電気通信役務の提供に関する契約(いわゆる携帯電話の回線契約)の新規契約手続(以下「新規契約手続」という。)を完結させることが可能な体制となっている。
     新規契約手続は,本人確認書類提出が必要であり,MNP予約番号発行手続や,解約手続より厳格な手続である。
  2. 2 一部事業者ではMNP(携帯電話・PHSの番号ポータビリティ)予約番号発行手続および電気通信役務の提供に関する契約の解約手続がインターネット上でできないこと
     MNP予約番号発行手続および解約手続は,契約をした者が手続きをしたことを確認すれば足りるのであるから,契約者が契約時に設定した暗証番号等を入力させるなどして,契約者本人によって手続が正式に行われた事を確認すれば手続を進めることは可能である。
     そのため,MNP予約番号発行手続および解約手続のいずれについても,暗証番号等の入力をさせるなどの手続を経ればインターネット上で手続をすることができる携帯電話事業者もある。
     しかし,一部携帯電話事業者では,MNP予約番号発行手続および解約手続について,インターネット上で手続が完結できない状況にある。
     このように,MNP予約番号発行手続および解約手続は新規契約手続よりもゆるやかな手続で足りるにもかかわらず,一部事業者ではインターネット上でこれらの手続きを完結することができない。
  3. 3 一部事業者ではMNP予約番号発行手続および電気通信役務の提供に関する契約の解約手続が契約者所有のスマートフォンからできないこと
     一部携帯電話事業者では,MNP予約番号発行手続および解約手続が,契約者所有のスマートフォンを利用して行うことができない状況である。
     携帯電話事業者は,携帯電話事業者とスマートフォンを利用する電気通信役務の提供に関する契約を締結した契約者には,携帯電話事業者が契約者各人の契約内容や料金内容を契約者のスマートフォンで確認できるサイト(以下「契約確認サイト」という。)を提供している。
     契約確認サイトを提供している事業者の中には,契約確認サイト内においてMNP予約番号発行手続および解約手続をすることが可能な事業者もある。
     しかし,一部携帯電話事業者においては,契約確認サイトからMNP予約番号発行手続および解約手続をすることはできない。
  4. 4 一部事業者では解約手続が店頭手続のみとなっているため,緊急事態宣言に伴い問い合わせが急増したと推測されること
     一部携帯電話事業者については,解約手続を店頭手続で行うことが原則となっていたことから,令和2年4月7日に発令された新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言(以下「緊急事態宣言」という。)によって,店頭手続を行うことが出来なくなった結果,解約手続について問い合わせを含むの電話での問い合わせが,当該一部携帯電話事業者の契約者から多数寄せられる事態となった。
     当連合会では具体的な問い合わせ件数を把握するため,緊急事態宣言期間中の令和2年4月および同年5月に一部携帯電話事業者へ寄せられた問い合わせ件数および応答件数について,一部携帯電話事業者へ照会を行っている。
     その結果,A社から総合問い合わせ件数につき,令和2年4月は196万4000件(うち応答数54万6000件),令和2年5月は171万1000件(うち応答数45万件)であったとの回答があった。
     あわせて,新型コロナウイルス感染症の影響がなかった時期におけるA社の総合問い合わせ件数につき,令和2年1月は110万7000件(うち応答数88万7000件),令和2年3月は105万4000件(うち応答数85万3000件)との回答も得られた。
     このように,緊急事態宣言がされた時期と新型コロナウイルス感染症の影響がなかった時期とを比較すると,緊急事態宣言の期間中の総合問い合わせ件数が61万件から86万件程度増加している。
     この総合問い合わせの増加分には,解約できないことを理由とする問い合わせが相当数含まれているものと推測される。
     なお,当連合会からA社と合わせて照会を行ったB社およびC社からは,回答を拒否する旨の回答があった。
     この点,携帯電話事業者の携帯電話契約数は,2020年6月時点(前記のA社からの回答がされた時期の直近の契約者数)で,B社が約5924万件,A社が約8061万件,C社が約4366万件となっている。
     回答を拒否したB社とC社の契約者数を合算した合計数はA社の契約者数を上回っていることからすると,令和2年4月と令和2年5月には,B社とC社の問い合わせ件数を合わせると,A社の問い合わせ件数を上回る問い合わせや応答が出来なかったケースがあり,かつその中には解約についての問い合わせが相当数含まれていたのではないかと推察される。
  5. 5 各地の消費生活センターへの苦情申立が多数あったこと
     このように,一部携帯電話事業者について,解約手続が店頭手続のみとなっていた。
     また,外出自粛要請もあり店頭での手続自体に不安を覚える契約者が多数であった。
     そのため,各地の消費生活センターに対して携帯電話事業者の解約について苦情が多数寄せられる事態となった。
  6. 6 感染拡大防止のためにもインターネット上およびスマートフォンからの手続を可能にすべきこと
     新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止は喫緊の課題であるが,いまだにMNP予約番号発行手続および解約手続を店頭のみに限定している一部携帯電話事業者がある。
     店頭でのこれらの手続自体,1時間前後の時間を要する手続であり,店員と契約者との間の長時間の接触が不可避な状況となっている。
     また,地方においては人出が多い店頭まで出向くこと自体が感染リスクの上昇になってしまう。
     現在,新型コロナウイルス感染症の感染拡大が懸念される状況であるが,A社が約8061万件,B社が約5924万件,C社が約4366万件の契約についてこれらの手続について店頭でしか受け付けていない状況では,各店舗においてクラスターが発生する蓋然性が高いといわざるを得ない。
  7. 7 MNP予約番号発行手続および解約手続を容易にすることが公正な競争促進となること
     携帯電話事業者において,新規契約手続はインターネット上で可能である。
     しかし,一部携帯電話事業者においてはMNP予約番号発行手続および解約手続を店頭のみと限定している。
     つまり,一部携帯電話事業者は,自社の電気通信役務の提供に関する契約を解約されてしまうMNP予約番号発行手続および解約手続について,契約者に手間や時間的なコストをかけさせることで,契約の解約をあきらめさせる目的があるものと考えられる。
     このように,新規契約手続きについてはインターネット上で簡易にできるようにするが,MNP予約番号発行手続および解約手続については簡易にできないようにすることは,契約者である消費者が事業者や契約内容を選ぶ自由を不当に侵害するものといえる。
     また携帯電話契約について,事業者間で公正な競争を促進させるためには,MNP予約番号発行手続および解約手続をインターネット上で手続きを完結できるようにさせ,他社への新規契約を促すことも必要である。
     そして,スマートフォン利用者については,MNP予約番号発行手続および解約手続を,契約者所有のスマートフォンを利用して契約確認サイトで手続を完結できるようにすることも,事業者間で公正な競争を促進させるために必要である。

以上

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