関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2021年度(令和3年度) 声明

出入国在留管理庁の「令和2年9月28日付け送付の国連の恣意的拘禁作業部会による意見書に対する日本政府の対応」の撤回を求める理事長声明

 出入国在留管理庁は,2021年3月30日付けで「令和2年9月28日付け送付の国連の恣意的拘禁作業部会による意見書に対する日本政府の対応」(以下「入管庁発表」という。)を公表した。
 2020年9月28日付けの国連の恣意的拘禁作業部会の意見(以下「作業部会意見」という。)は,日本政府が外国人2名に対して入管収容により自由を剥奪したことが,世界人権宣言や市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)の条項に違反し,恣意的拘禁に該当するとして1,日本政府に対して,これら関連する国際規範に適合するように必要な措置をとること等を求めた2
 この作業部会意見について,入管庁発表は,「我が国の出入国在留管理制度を正しく理解せず,明らかな事実誤認に基づくものであり,国際的にも国内的にも我が国の法制度及び運用に対する誤解を生じさせるとともに,不当な評価をも惹起させるおそれがあるもの」3であり,「我が国の法制度及び運用に対する明らかな事実誤認に基づくものであって到底受け入れることはできない」4と主張するものである。

 入管庁発表は,出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)が仮放免制度を規定していることや,また収容・仮放免の拒否について不服のある者は裁判所に対する行政訴訟を提起することができること等を指摘して,入管法の定める「適正な手続を遵守して適切に行われており,我が国が締結する人権諸条約に抵触するものではなく,恣意的拘禁に当たらないことを改めて強調する」5と述べる。

 しかし,入管庁発表のこの「強調」は当を得たものではない。まず確認しておくべきなのは,条約及び確立された国際法規は法律に上位するところ(憲法98条2項),作業部会意見は日本の法律やその運用が国際法に適合していないと指摘しているのであり,これに対して法律に基づいているというだけでは当を得ない。
 そして,作業部会意見が国際法違反と指摘したのは,入管法が,仮放免の前提となる収容において,個別事情を考慮せず(全件収容主義),司法審査もなく,かつ無期限の収容を認めているからである。作業部会意見は,収容措置等を事後的に裁判所で争う行政訴訟が存在することを指摘する日本政府の主張を摘示したうえで6,入管収容には裁判所の承認か審査が必要であること7,収容には合理性,必要性,比例性が必要であること8,収容の適法性を継続的に確保するため定期的な司法審査がなされること9,収容の最長期間が法定されること10等が国際人権基準であることを指摘したものである。
 また,日本政府は,作業部会意見に先立ち,自らの主張を行う機会を作業部会から与えられていたのに,「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律」を理由に,当該外国人2名に係る詳細な情報の提供をしなかった11。しかるに,作業部会意見から約半年後の今回の入管庁発表では,当該外国人2名の個別的な言動等を示して12,作業部会意見は明らかな事実誤認に基づくと論難するのである。自らに不利な判断が出たからといって,今となって,事案を蒸し返すような対応をするのは妥当でない。

 国際規範違反を指摘された政府がそれを正すのではなく,作業部会意見の指摘を踏まえない反論を示し,国際人権法機関の資質や能力に疑念を抱いているとも受け取られかねないような対応をしたのは遺憾である。
 当連合会は,作業部会意見を受けて,2020年10月26日付け「国連恣意的拘禁作業部会意見採択を受けて,日本の入管収容における全件収容主義及び無期限収容を直ちに廃止し,国際法を遵守するよう求める理事長声明」を発出した。
 本来,諸国に率先して国際人権法の発展に貢献するべきである日本が行うべきは,むやみな反論などではなく,入管法を国際法を遵守するように直ちに改正して,入管収容における全件収容主義及び無期限収容を廃止すること,そして作業部会によるカントリー・ビジットを速やかに受け入れることである。
 よって,当連合会は,政府に対し,入管庁発表を直ちに撤回し,作業部会意見が求めた必要な措置をとることを求める。

2021年(令和3年)4月13日

関東弁護士会連合会  
理事長 海老原 夕美


1 作業部会意見100項
2 同意見101項
3 入管庁発表1項
4 同発表5項
5 同発表3項
6 作業部会意見44~49項
7 同意見75項
8 同意見76項
9 同意見89項
10 同意見91項
11 同意見42項
12 入管庁発表4項

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