関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

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2021年度(令和3年度) 大会決議

日本国憲法の改正手続に関する法律の抜本的な改正を求める決議

 日本国憲法の改正手続に,主権者である国民の意思を適正に反映するため,少なくとも有料広告規制の整備及び最低投票率を設置する抜本的改正を行うことを求めるとともに,これらが行われるまで憲法改正発議を行わないよう求める。

2021年(令和3年)9月24日
関東弁護士会連合会

提案理由

 本年6月11日,日本国憲法の改正手続に関する法律(以下,「憲法改正手続法」という)が改正された(以下,「本改正」という)。本改正は,駅や商業施設への共通投票所の設置や期日前投票の弾力化など,2016年の公職選挙法の改正に伴い導入された投票環境向上のための7項目の規定を整備したものであった。

 当連合会では,2019年9月27日の「あらためて憲法9条改正案が日本国憲法の恒久平和主義と立憲主義を危険にさらすおそれがあること,国民生活,基本的人権の保障に多大な影響があることを明らかにするとともに,国民主権の観点から憲法改正手続法の抜本的改正を求める決議」において,当時の憲法改正手続法に関し有料広告規制の不備,最低投票率の不存在の問題点を指摘した。
 しかし,本改正でも有料広告規制については法施行後3年を目途に必要な法制上の措置を講ずる旨の附則が追加されたにとどまり,改正は行われなかった。さらに,最低投票率については改正が行われていないばかりか,附則で触れられてすらいない。

 憲法は国の最高法規であり,国民投票を実施するにあたっては,主権者である国民の意思が適正に反映されなければならない。そして,国民の意思が適正に反映されるためには,憲法改正に関する十分で正確な情報が国民に提供される必要がある。そのためには,国民に提供される情報量に偏りが生じる事態はあってはならない。テレビ広告を例とする有料広告は,その視聴者に多大な影響を与えるが,資金力がない者が利用することは困難であり,他方で資金力がある者は利用できることから,資金力の多寡により国民に提供される情報量に偏りが生じる危険が大きい。このような弊害を防ぐため諸外国では,テレビのスポットCMの禁止や時間配分を均等にする規制が行われている国もある。更に本改正では附則において国民投票の公平及び公正を確保するためとして「インターネット等を利用する方法による有料広告の制限」「国民投票に関するインターネット等の適正な利用の確保を図るための方策」の検討,必要な法制上の措置を講ずる旨が盛り込まれたところ,昨今のインターネットの影響力を考えれば,この点に関する措置なくして,主権者である国民の意思を適正に反映することはできないといえる。
 また,主権者である国民の意思が適正に反映されたといえるためには,そう言えるだけの投票が必要であり,最低投票率の定めは必要不可欠である。最低投票率の定めがなければ,憲法改正がなされる際に少なくとも一定の数(例えば有権者総数の3分の1)の賛成投票が存在することを担保する規律が何ら存在しないこととなるので,有権者のごく一部のみの賛成により憲法改正が成立してしまうことになりかねない。このような事態は,主権者である国民の意思が適正に反映されたものとは到底いえない。
 したがって,現在の憲法改正手続には勧誘CM及び意見表明CMの時期的制限の在り方等,国民の意思を適正に反映するために改正が必要又は検討されるべき事項が存在するが,少なくとも,憲法改正手続に国民の意思を適正に反映したといえるためには,有料広告規制及び最低投票率の定めが必要である。

 そして,これら改正が行われるまでの間に国民投票が行われることとなれば,それは主権者である国民の意思が適正に反映されたものとはいえないのであるから,これら改正が行われるまでの間は,憲法改正発議は許されないというべきである。

 よって,当連合会は,憲法改正手続に国民の意思を適正に反映するために,少なくとも有料広告規制及び最低投票率の設置を盛り込んだ,憲法改正手続法の各問題点の抜本的改正を求めるべく,本決議を行うものである。

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