関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2022年度(令和4年度) 声明

大会宣言

地球環境と未来のための持続可能で地域に根ざした再生可能エネルギーの導入と発展のための宣言

 これまで私たちは主なエネルギー源として、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料に頼ってきました。しかし、化石燃料は限りある資源であることから持続可能性に欠けています。また、使用時に地球温暖化の原因とされる二酸化炭素が排出されることから地球温暖化の原因の一つとしての問題も抱えています。実際、今年6月下旬に連続した猛暑日と関東の電力が逼迫した事態は、地球温暖化問題対策と電力供給力確保の必要性が非常に切迫した問題であることを私たちに突きつけました。
 このため、エネルギーの安定供給を確保し、気候変動対策にも役立ち、持続可能な開発目標(SDGs)にも貢献するエネルギーとして、太陽光・風力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーの早期の導入と活用の必要性が高まっています。
 日本政府も「2050年カーボンニュートラル実現」という政府目標を掲げ、地球温暖化防止推進法を改正するなどして「再生可能エネルギー」の導入と活用を推進しています。そして、国はもちろん、地域、企業による様々な取組みが行われています。
 しかし、上記政府目標実現のためには、再生可能エネルギーの導入をスピードアップする必要があるという状況にあり、このスピード感ゆえに紛争も生じやすいという状況にあります。
 また、日本では適切な土地利用規制(ゾーニング)がなされていないことから、再生可能エネルギーの事業が、地域の自然環境・生物多様性や地域住民の生活環境に対し悪影響をもたらしているとの懸念が生じ、地域住民等との間でトラブルが発生する事例も見受けられます。このようなトラブルの発生は、再生可能エネルギー事業の発展を阻害することになりかねません。
 持続可能な形で再生可能エネルギー事業を実施するためには、過去のトラブル事例も参考にしながら、地域住民などのステークホルダーとの間で権利調整・合意形成を図りながら事業を進めていくことが必要です。弁護士などの専門家もこのような観点から事業者及び地域の双方を支援する必要があります。
 一方、地域の人々や事業者が主体的に関与する形で、再生可能エネルギーの導入を推進していくことは、持続可能な地域経済の活性化に貢献するという良い影響も期待されています。
 しかし、このような地域での再生可能エネルギー事業については、事業収益・資金調達の確保や法規制への対応などの点で様々な障害もあり、そのような障害を克服し事業を推進していくためにも、地域の自治体・金融機関や弁護士などの専門家の支援が不可欠です。
 地域の環境保全を図りつつ地域における再生可能エネルギー事業を促進する観点から、地球温暖化防止推進法の改正により地域脱炭素化促進事業制度が創設されました。この制度が適切に運用し普及されるためにも、上述した地域トラブル防止や地域の活性化などの観点からの様々な工夫や実務の向上が必要です。
 以上の様な観点から、再生可能エネルギー事業を広く展開しうる制度構築ないし環境整備が、再生可能エネルギー事業の持続可能性につながり、ひいては地球環境の保全と次世代に受け継ぐべき未来につながることになるものと考えます。
 地域に受容され、ひいては地域を活性化する形で再生可能エネルギー事業を展開する社会を実現するため、当連合会は以下の通り宣言します。

  1. 第1 私たちは、再生可能エネルギー事業に伴って各地域で発生する紛争の解決、地域住民を含む様々なステークホルダーの権利調整・合意形成のために、紛争等の事例や紛争解決・合意形成のための実務を集積すると共に、地域における再生可能エネルギー事業を普及するにあたっての課題や地域社会の活性化に貢献するための実務も集積し、これらを弁護士が活用するように推進します。持続可能な形で再生可能エネルギー事業を促進することが持続可能な未来の実現に資するという共通認識の下で、弁護士が、地域住民・事業者・金融機関・国・自治体など再生可能エネルギー事業に関わる様々な当事者を法的に支援することを呼びかけてまいります。
  2. 第2 再生可能エネルギー事業者に対しては、地域における紛争等を未然に防ぐことが持続可能な再生可能エネルギー事業の発展につながるとの理解の下で、適用される法規制を適切に遵守し、過去の紛争事例も参考にしながら紛争防止に努め、地域住民などのステークホルダーとの間の権利調整・合意形成を図りながら事業を進めることを求めます。また、再生可能エネルギー事業が地域住民の理解を得て、地域に受容され、地域において持続し発展し続けるために、電力の地産地消に努め、雇用を創出するなどして地域経済に貢献し、ひいては地域の発展に貢献するよう最大限の努力をするよう求めます。
  3. 第3 国及び各地域の自治体に対しては、広く事業者が再生可能エネルギー事業に参入することができる環境を整備するため、同事業の持続及び発展に必要な再生可能エネルギー事業者に対する金融機関による設備投資及び運転資金等の事業資金の補助及び融資等について公的保証制度を利用できるようにするなど、金融機関による事業資金の補助及び融資等を円滑かつ積極的に実行できる仕組みの整備を促すなどの積極的関与と、必要な法令及び条例の整備を求めます。また、再生可能エネルギー事業が早く広く持続的に受容されるために、再生可能エネルギーと同事業についての基本的知識、その必要性、重要性、問題点と解決例などの基礎知識を、市民ならびに再生可能エネルギー事業者が身につけることができるようにするために、地域に密着した形と内容の積極的な啓発活動及び教育の実行を求めます。

 以上の通り宣言します。

2022年(令和4年)10月14日

関東弁護士会連合会

提案理由

  1. 1 日本政府の「2050年カーボンニュートラル実現」という政府目標実現のためには、再生可能エネルギーの導入をスピードアップする必要があり、また、そのスピード感ゆえに紛争も生じやすいという状況にあります。
     この様な紛争の大きな原因は、日本では適切な土地利用規制(ゾーニング)がなされていないこと、あるいは再生可能エネルギー事業の開発の多くが地域外の大規模企業によって行われてきたことから、地域あるいは地域住民との間で紛争が発生する事例が見受けられました。
     このような紛争が多発すれば、再生可能エネルギー事業の導入と発展が阻害されることになりかねません。
     また、地域あるいは地域住民との紛争を実際に抱え、あるいは、抱える可能性がある事例については、再生可能エネルギー事業に対する金融機関による融資や公的資金の補助も行いにくく、再生可能エネルギー事業の導入の障害となる可能性もあります。
     このため、事業者が再生可能エネルギー事業に取り組む場合、まずは、予防的見地から当該地域において紛争等を起こさないこと、紛争等が発生したとしても早期に、かつ、合理的に解決できることが重要です。そして、この紛争等の予防のためには予測可能性が重要です。また、紛争等の早期かつ合理的な解決についても同様に予測可能性が重要な役割を果たします。この予測可能性の重要な基礎になるのが、先行する紛争等の事例と解決例の集積です。
     そして、集積した紛争事例及び解決例を幅広く弁護士が活用し、持続可能な形で再生可能エネルギー事業を促進することが持続可能な未来の実現に資するという共通認識の下で、弁護士が、地域住民・事業者・金融機関・国・自治体など再生可能エネルギー事業に関わる様々な当事者を法的に支援することを呼びかけてまいります。
  2. 2 地域外の大企業が当該地域において再生可能エネルギー事業を開発し、持続し、発展させるためには、紛争等を予防し、あるいは紛争等が発生した場合に早期かつ合理的に解決できるというだけでは不十分であると考えられます。再生可能エネルギー事業が地域住民の理解を得て、地域に受容され、地域において持続し発展し続けるために、電力の地産地消に努め、地域の雇用を創出するだけでなく、地域経済に貢献し、ひいては地域の発展の原動力になることが理想です。この様な経済効果が期待出来れば、地域外の大企業だけでなく、地域の中小企業も、当該地域に密着し、地域により適した形で再生可能エネルギー事業に参入することが期待出来るようになります。つまり、再生可能エネルギー事業に参入する企業に対しては、当該地域経済に貢献し、地域の発展の原動力となることにより、地域に受容され、地域に根ざす存在になるよう最大限に努力することが求められます。
  3. 3 実際に、再生可能エネルギー事業に参入する事業者を広く確保することも、再生可能エネルギー事業の持続と発展のために必要不可欠です。その参入のための設備投資資金、事業継続のための運転資金、事業発展のためのさらなる設備投資資金などが金融機関等から円滑に供給されないようであれば、再生可能エネルギー事業に参入する事業者を広く確保することは困難になります。このため、国及び各地域の自治体に対しては、広く事業者が再生可能エネルギーに参入し、事業を継続し、発展させるために必要な資金を金融機関が円滑かつ積極的に供給可能にするために必要な法令及び条例等を整備するなど積極的に関与することが求められます。
     他方で、再生可能エネルギーと同事業が早く広く持続的に受容されるためには、市民の側においても、再生可能エネルギー及び同事業についての基本的知識、必要性及び重要性に対する適切な理解が必要不可欠です。そのために、国及び各地域の自治体による積極的な啓発活動及び教育の展開が有効であると考えられます。啓発活動及び教育を通じて、再生可能エネルギーの利点はもちろん問題点と解決例についての知識も広く市民が共有することが、紛争を予防し、あるいは、紛争を早期に解決することに繋がると考えられます。このような理由から、国及び地域の自治体による再生可能エネルギーと同事業についてのより積極的な啓発活動と教育の展開を求めます。
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