関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2022年度(令和4年度) 大会決議

改めて日本国憲法の恒久平和主義及び国是である非核三原則を堅持することを求める決議

 ロシア連邦によるウクライナ侵攻を契機に生じた安易な軍備増強論や核兵器共有論に流されることなく、日本国憲法前文及び第9条により定められた恒久平和主義並びに国是とされる非核三原則を堅持することを求める。

2022年(令和4年)10月14日
関東弁護士会連合会

提案理由

  1. 1 2022年2月24日、ロシア連邦はウクライナに対し明らかに国連憲章に違反する軍事侵攻を開始し、突如戦場と化したウクライナでは極めて多くの人命が奪われ街が破壊された。侵攻を受けたウクライナ国民はもとより、ロシア兵士にも多数の死傷者が出ており、自らは戦場に赴かない為政者の暴走により多くの国民・市民が辛酸をなめる「戦争」という理不尽を、またもや世界は突きつけられた。このような事態に直面したことにより、政府の行為により国民が戦争の惨禍に巻き込まれないようにと定められた日本国憲法前文及び第9条で掲げる平和主義の価値が改めて見直されるべきである。
     しかしながら、ロシア連邦のウクライナへの軍事侵攻をきっかけとして、わが国の一部から「日本も軍備を増強しなければウクライナのように侵略される」という声が上がり、防衛費の倍増、反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有、同盟国との核兵器共有、憲法前文及び第9条の改正を企図した動きが出ている。
  2. 2(1) そもそも、第二次世界大戦において、日本はアジア・太平洋諸国に侵攻して死者2000万人にも及ぶと言われる甚大な被害をもたらし、多くの街を破壊した。また、230万人もの軍人・軍属が死亡し、日本国内では80万人もの市民が犠牲になった。このような悲惨極まりない戦争に対する反省として、そして、為政者の失策により再び国民が戦争の惨禍を被ることのないように、日本国憲法は前文において「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し」「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と宣言し、それを受けて第9条で戦争放棄、戦力及び交戦権の否認を規定し、恒久平和主義を憲法の三大原則のひとつとしたのである。日本国憲法の平和主義は、日本が武力によらない平和の構築に努めることを世界に向けて宣言すると同時に、他国を攻撃したり日本の国民・市民を戦争に巻き込むことを構造的に防ぐよう定められた歯止めである。
  3.  (2) ウクライナ侵攻を契機として唱えられている軍備増強論や核兵器共有論は、先の大戦でアジア各国を侵略したのは日本であったことも、日本が核兵器の残虐さを身をもって知る唯一の被爆国であることも考慮していない。
     これまで日本は、憲法に平和主義を掲げ、個別的自衛権のうち専守防衛の枠内に限って防衛力を保持するに留まり、周辺国の軍事的脅威にならないことで現在の地位を築いてきた。しかしながら、2014年に当時の安倍内閣は、それまでの政府解釈を180度転換し、集団的自衛権の行使は憲法第9条の下で許容されるとのいわゆる「解釈改憲」を行い、自衛隊や国の在り方を大きく変容させた。この上さらに日本が軍備を増強し、同盟国と核兵器を共有し、憲法第9条を改正する方向に舵を切れば、日本国民が望むと望まざるとにかかわらず、日本は平和主義を捨て去ったというメッセージをこれまでよりもさらに強く世界、特に周辺アジア諸国に発信することとなり、そのことによってアジアの緊張と不安定化をもたらすことになる。
     そもそも、核兵器共有論は、日本も批准・加盟する核不拡散条約や国是である非核三原則に明確に違反し、許されるものではない。むしろ、ロシア連邦が核兵器の使用をちらつかせて他国を恫喝する事態となっている現在、核兵器の残虐さを身をもってしる唯一の戦争被爆国として、早期に核兵器禁止条約に署名・批准し、核兵器廃絶に向けてイニシアティブを発揮することこそが求められている。そういった取組を通じて、世界の核兵器廃絶への流れを大きく前進させ、国際社会における「名誉ある地位」を占めることが、恒久平和の維持・構築や国民の生存・安全の確保に繋がる唯一の道であり、それこそがまさに日本国憲法の理念だからである。
  4. 3(1) 現実的な問題としても、力には力で対抗する軍拡路線を採用すれば、相手と同等かそれ以上の武力を保有する必要に常に迫られ、相手もこちらの軍拡に合わせて軍備を増強するので、この路線に終着点はない。しかし、長期にわたる経済・産業の停滞、今後さらに進行する少子化による人口減少などにより国力の縮小が不可避である日本において、国民・市民生活を犠牲にせず軍事大国と比肩する防衛予算を捻出することは不可能である。軍拡競争に身を投じることとなれば、一層の増税や社会福祉の切り下げは避けられず、国民の生活は逼迫し、国家的にも財政破綻を招きかねない。
  5.  (2) 加えて、日本政府が閣議決定により憲法第9条違反の集団的自衛権を容認し、それに沿って法整備を強行した現状では、これまでのように、憲法上個別的自衛権しか許されていないため他国防衛のために自衛隊を派遣することは不可能であると対外的に主張することが困難となった。つまり、集団的自衛権の名の下に自衛官が海外で命を落とす危険性が高まっているのである。ここでさらに、憲法第9条に反する自衛権の拡大解釈により反撃能力(敵基地攻撃能力)を保有するならば、同盟国に対する急迫不正な武力攻撃があったとされた時点で日本は自国が攻撃されていないにもかかわらず先に敵基地を攻撃する、つまり戦争に突入するという可能性があり、結局のところ自ら報復攻撃を呼び込み、自衛官のみならず市民を巻き込む戦闘となる危険性が高まる。
  6. 4 今、日本に求められることは、憲法に定める恒久平和主義を蔑ろにすることではなく、不断の外交努力で、関係が冷え込んでしまった中国・韓国との友好関係を構築し、北朝鮮を国際的な話合いのテーブルに呼び戻し、軍事力に頼らないアジア太平洋地域の安定と平和をはかるとともに、世界の紛争解決や非人道的な核兵器の廃絶に向けて積極的役割を果たすことである。日本は日本国憲法前文及び第9条により定められた恒久平和主義及び国是とされる非核三原則を堅持し、その理念に沿った不断の外交努力を積み重ねることにより、アジア、ひいては世界の安定と平和に資する役割を果たすべきである。当連合会は、これまでにも日本国憲法の恒久平和主義を堅持すべきとの大会決議を度々採択してきたが、ウクライナ侵攻という事態に世界が直面した今回、改めて本決議を行うものである。
PAGE TOP