関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

宣言・決議・意見書・声明等宣言・決議・意見書・声明等

2022年度(令和4年度) 声明

包括的な人種差別禁止法の制定等を求める理事長声明

 人種等(人種、皮膚の色、世系、民族的若しくは種族的出身、出身地、国籍)を理由として差別されない利益は、すべての人が享受する基本的な利益であり、人種等を理由とする差別(以下「人種差別」という。)の絶対的な撤廃は、近年急速に進む多文化共生社会を根幹から支える理念である。人種差別は、憲法第13条が保障する個人の尊重や人間としての尊厳を根底から傷つけ、憲法第14条が定める平等権を侵害する。
 しかし、時代が進み社会が進んでも、差別はいまだ根強く、負の遺産として連綿と続いている。日本においては、とりわけ植民地政策に端を発する差別が根強いが、人種差別の被害は、かつて植民地であった朝鮮半島にルーツを有する人々に加えて、アイヌ民族等の人種的・民族的少数者、部落出身者などに及んでいる。また、差別的な取扱いも、入店・入居拒否、就職・結婚における差別、民族学校への攻撃、公職への参画制限等、多岐にわたり、これらは今もなお続いている。近時はさらに、排外主義的主張を標榜する団体等により、朝鮮半島にルーツを有する人々に対するヘイトスピーチが活発化するとともに、集住地区等への連続放火事件が発生するなど、ヘイトクライム(人種差別的動機に基づく犯罪)が頻発している。ヘイトスピーチ、ヘイトクライムは人種差別の一種であるが、これらは、直接の被害者を害するに止まらず、差別意識を社会において煽動・蔓延させ、ひいてはジェノサイド(民族集団等に対する集団殺害等)や戦争にもつながる危険性を孕んでいる。

 日本は、人種差別撤廃条約の締約国として、人種差別を根絶すべき義務を負っている。それにもかかわらず、現状、差別的取扱い、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムに対する処罰・それらの撤廃、被害者の救済措置等の法整備が十分に進んでいない。
 この原因は2つある。ひとつは、日本の国内法において、人種差別を包括的に禁止する法律が存在しないことである。人種差別撤廃条約を具体化する法律がなければ同条約に基づいた規制を十分に及ぼすことができない。人種差別のうちヘイトスピーチに関しては、2016年、これを規制する個別法としていわゆるヘイトスピーチ解消法の制定がなされたところではあるが、適用範囲が限定されている、ヘイトスピーチを明確に禁止していないなど、その内容は不十分なものにとどまっている。当連合会が2019年3月に実施したアンケート調査によれば、同法施行後もなお日本各地でヘイトスピーチが多様化・社会問題化しており、これに対する行政の対応にもばらつきがあり、そもそも実態把握すらも十分でないことが明らかとなっている。
 人種差別をされない利益を護るには、個別法の制定より、先ずは人種差別を明確に定義したうえで、人種差別が禁止されることを明記し、禁止を破った場合の罰則を規定する、包括的な人種差別禁止法の制定が必要である。

 原因のもうひとつは、人種差別撤廃条約第4条(a)(b)の適用に当たり、日本が留保を付していることである。同条約第4条(a)(b)は、表現の自由の保障とヘイトスピーチの処罰とは両立しうることを前提として、ヘイトスピーチ、ヘイトクライムを法律で犯罪として定めて処罰することを締約国に義務づけるものであるが、日本は「日本国憲法の下における集会、結社及び表現の自由その他の権利の保障と抵触しない限度において、これらの規定に基づく義務を履行する」としてことさらに留保を付し、現在に至るまで、ヘイトスピーチを明確に禁止、処罰する法律の制定をしていない。
 人種差別を絶対的に撤廃するには、先ずは人種差別撤廃条約第4条(a)(b)についての留保を撤回し、表現の自由の保障と両立するような態様でのヘイトスピーチの禁止、処罰に関する条項を包括的な人種差別禁止法において定めることが必要である。

 これらの2つの原因については、国連の人種差別撤廃委員会から日本に対し、締約国の義務を十分に履行していないとして20年以上にわたり懸念を示され続け、あるいは勧告が繰り返されている(人種差別撤廃委員会の総括所見2001年3月20日、2010年4月6日、2014年9月26日、2018年8月30日)。

 当連合会は、国会及び政府に対し、人種差別撤廃条約の締約国として、人種差別を根絶するため、同条約第4条(a)(b)についての留保を撤回すること、包括的な人種差別禁止法を制定すること、その法には人種差別の明確な定義、ヘイトスピーチを含めた人種差別の禁止及びその違反に対する罰則を明記した条項を置くことを求める。

 2023年(令和5年)3月30日

関東弁護士会連合会   
理事長 若 林 茂 雄

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