関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

写真
林 修さん

予備校講師
林 修さん

とき
平成26年7月23日
ところ
東進ハイスクール御茶ノ水校(東京都千代田区)
インタビュアー
会報広報委員会委員 溝上聡美

 今回の「わたし」は,東進ハイスクールの超人気講師,林修先生です。
 林先生は,みなさまもご存知のとおり,「いつやるか。今でしょ!」のフレーズで,一世を風靡し,瞬く間に時代の寵児となられました。その人気は,とどまるところを知らず,今日では,林先生の姿をテレビで見ない日はないと言っても過言ではないでしょう。
 本日は,東大受験を志す高校3年生を対象とした授業を終えられたばかりの先生にお話を伺いました。

先生は,著書の中で,5年後の自分の姿をクリアーに思い描くことができると書かれています。先生が思い描く「5年後の自分の姿」とはどういうものでしょうか。

林先生 実は,まったくわからなくなったんです(苦笑)。自分で本に書いておきながら,こういう回答をしてしまうことをご勘弁ください。その本を書いていた時は,自分の5年後の姿がはっきりと想像できていたのですが,今は1年後の自分さえわからないんです。
 私がこんな風に頻繁にマスメディアに露出するようになったのは,昨年の2月からなのですが,その時点では,私は,こういう状態は1年もしないうちに終わっているだろうと思っていたんです。それなのに,まだ,そのままの状況が続いているんですから。たった1年後の予想さえ,大はずれでした。

確かに,先生の人気は,目を見張るものがありますね。
 先生ご自身は,このように人気を博している理由はどこにあると分析していらっしゃいますか。

林先生 どうなんでしょうか。私が,「新種」だったからではないでしょうか。つまり,これまで,私みたいな人間がテレビに出演していなかったから,物珍しいのではないかと思います。ただ,こういうタイプは,東大にはゴロゴロいるんですけどね(笑)。

これほど驚異的な人気が持続しているのは,「新種」というだけでは説明がつかないように思います。私は,先生が,テレビの視聴者を惹きつける秘訣をお持ちなのではないかと思っています。もっとも,「秘訣」ですから,ここでは公表できないのかもしれませんが…。

林先生 そんな「秘訣」は,ありませんよ(笑)。
 ただ,人気が持続している理由なのかどうかわかりませんが,私は,どんな仕事でも,求められるレベル,つまり,「林に頼めば,このくらいやってくれるだろう」と相手が期待しているレベルを,必ず超えるように努めています。
 求められていたレベルの仕事しかできなかったら,次のオファーは来ないものなんですよ。「次もお願いします」と言っていただけるのは,相手の期待していたレベルを超え,予想をよい意味で裏切りつつ満足してもらえたときだけだと思います。

なるほど。しかし,そうすると,相手の期待を超えた成果を出すと,その都度,相手の期待は大きくなり,レベルがどんどん高くなってしまいませんか。

林先生 そうなります。ですが,期待を超えた結果を出す度に自分も成長していくので,相手の求めるレベルが上がっても案外何とかなるものです。

先生は,非常にストイックな努力家なんですね。

林先生 いえ,いえ。仕事の努力は努力ではありませんから。
 「結果」を出してナンボなんです。テレビであれば視聴率という「結果」を出さなければ意味がない。予備校の仕事でいえば,受講者数を増加させる,さらには合格実績を上げるという「結果」を出さなければなりません。努力は,評価の対象ではなく,「結果」の必要条件でしかないのです。

そういう点では,先生の中では,予備校の仕事もテレビの仕事も共通しているのですね。

林先生 そうですね。もっとも,予備校の仕事とそれ以外の仕事はまったく別のものとして,一線を画す場面もあります。
 たとえば,話し方に関しては,もし,予備校の授業で話しているような調子でテレビ番組で話をしたら,バッシングの嵐になると思います(笑)。
 私は,話を聞く相手によって,どのような話をするかは勿論,同じ話をするにしても,どのようなスピードで話すか,どのような言葉を使うか,ということに配慮しています。したがって,予備校とそれ以外の場所では,まったく異なる話し方をするのです。

先生が師と仰がれている,村上陽一郎先生(東京大学名誉教授。専攻は科学史・科学哲学。)も,著書の中で,落語家の師匠が,寄席で,その場の空気に応じて演目を決めることを例に挙げ,ご自分も,講義や講演では,原稿やノートを読み上げたりせず,その場で,どういう順序で,どういうジョークを挟みながら,どういうやり方で話すかを考えると書いていらっしゃいます。 もっとも,講義や講演は,寄席とは性格が異なるので,お客を見て初めて話の内容を決めるわけではない,とのことでしたが。

林先生 私が話をする際の姿勢が,村上先生と同じだというのはとても嬉しいです。
 ただ,私は,講演であっても,その場にいらしている方の年齢層や男女比,話し始めたときの感触などによって,話す内容も変えてしまいます。もちろん,講演の場合,演題は事前に決まっていて,その演題で私の話を聞きにきてくださる方もいるので,演題自体を変えることはしませんが,その演題について,どのような話をするか,という派生部分を変えることで臨機応変にその場に対応しています。
 どのような話をするか,ということを考えるためには,事前準備も怠りません。例えば,地方に講演に行く場合には,その都市の歴史,産業,人口密度や,その自治体のウエブページなどを調べます。その都市までの道中では,風景や町並みを徹底的に観察します。また,可能であれば,何時間か前に現地入りし,そこで食事をとって,周囲の人が話している会話を聞いたりして,実際の空気を感じるようにもしています。
 そして,そこで生活をする方々が,私の言葉でどのようなイメージを頭の中に持つであろうかということを考えた上で,私の伝えたいことが伝わるように,適切な言葉を選んで話をします。
 もちろん,2~3時間程度の調査ですべてが分かるわけではありませんが,それでも,私の講演を楽しんでいただけるように,そうした準備を徹底的に行います。

そういう真摯な姿勢が,先生に仕事を依頼したい,というニーズをさらに生むことに繋がっているのでしょうね。
 弁護士業界では,今,「埋もれたニーズを掘り起こそう」という動きがあります。つまり,弁護士が必要とされる場面は本来もっとあるはずだ,ということなのですが,先生は,弁護士に依頼する側の立場として,どういうときに弁護士に相談したり,仕事を頼んだりしたいと思われますか。

林先生 私は,法学部出身ですし,弁護士になった友人もいますので,些細なことでも,友人に聞くことができます。でも,もし,彼らが友人でなければ,彼ら弁護士に何かを相談するなんて,気後れしてなかなかできるものではないと思います。

先生のような方でも,気後れされるのですか。

林先生 しますよ。私を含めて,一般の人にとって,弁護士に依頼する,というのは,ハードルが高いことだと思います。費用が高そうだから,ということも敬遠する理由の一つだとは思いますが,加えて,一般人の感覚として,できるなら,弁護士の世話にはなりたくない,ならないように自分でなんとかしたい,という思いがあるからではないでしょうか。

費用に関していえば,予備校の受講料の方が高いように思います(笑)。

林先生 そう来ましたか。それは,確かに,そうかもしれませんね(笑)。
 人は,「これにはお金がかかる」と想定しているものに対しては,高額な対価でも支払うものだと思います。日本では,一般の人にとって,弁護士費用というのは,「想定外」の費用なんでしょう。だから,想定していない費用を支出することになると,「高い」と感じてしまう。
 ただ,安ければいいというものでもないですよね。
 弁護士費用についても,医療と同様,国民皆保険のような制度があると,「弁護士に相談する」ということがもっと当たり前のようになるかもしれませんね。

仰るとおりです。そして,今,挙げられた医療に例えますと,弁護士としては,風邪を引いたかな,というくらいの段階で相談にいらしていただければよいのにと思います。紛争になってしまう前に相談にいらしていただければ,もっと良い解決方法があったということも少なくありませんから。

林先生 そうですよね。でも,実際には,きっと,末期癌のような段階になってからでないと相談に行かないんですよね。弁護士に相談するのは,最後の最後。もう,自分ではどうしようもなくなったときなんだと思います。
 一般の人が,気軽に弁護士に相談に行けるようにするには,長い歴史の中で培われてきた,日本人の考え方を変える必要があるのではないでしょうか。みんなが,「弁護士に相談に行き,弁護士に依頼するのは,ごく自然なこと」だと思うように。

国民性ともいうべき考え方を根本から変えるというのは,一朝一夕にできることではないですね。難題です。
 では,最後に,先生が,弁護士に期待される素養は何でしょうか。

林先生 一般論としては,圧倒的な専門的知識があるということは当然の前提として,その上で,やはり,コミュニケーション能力が高くあってほしいと思います。
 また,私たち一般市民は,「これ,おかしいんじゃないかな」と思っても,何らかの制裁があるのではないかという怯えから,公権力に意見することを躊躇してしまうという弱さがあります。そういうとき,臆することなく戦えることが,弁護士として,なくてはならない素養ではないでしょうか。

仰ることは,まさに,弁護士法第1条「弁護士の使命」,同第2条「弁護士の職責の根本基準」に規定されているところでもあります。
 そうした期待に応えられる弁護士でありたいと思います。
 本日は,お忙しい中,本当にありがとうございました。


弁護士法1条1項 弁護士は,基本的人権を擁護し,社会正義を実現することを使命とする。

同法2条 弁護士は,常に,深い教養の保持と高い品性の陶やに努め,法令及び法律事務に精通しなければならない。

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