関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

写真

漫画家
高橋 陽一さん

とき
平成28年6月13日
ところ
有限会社ヨウヨウスタジオ
インタビュアー
会報広報委員 西岡毅

 今回の「関弁連がゆく」では,漫画家の高橋陽一先生にインタビューしてまいりました。
 高橋先生の代表作「キャプテン翼」は,日本だけでなく,世界的にも大変な人気を博しており,まさにサッカー漫画の金字塔と言える作品です。「キャプテン翼」でサッカーのファンになった方も多いのではないでしょうか。
 今回,高橋先生には,漫画家としての生活から「キャプテン翼」の色々についてお話をお聞きしてまいりました。

まず最初に,漫画を描き始めたきっかけを教えてください。

高橋さん 小さいときから絵を描くことが好きでしたので,その延長線上ということになります。最初から漫画を描いていたわけじゃないんですが,幼稚園に上がる前からお絵描きが好きな子どもで,小学校では図工の時間が好きで,そういうところから始まっています。漫画を初めて描いたのは,小学校の高学年,5,6年生ぐらいですかね。

それは早いですね。どういった作品でしたか。

高橋さん ウルトラマンのようなヒーローと怪獣を戦わせたり,野球の「巨人の星」が好きだったので,架空の野球チームを作って自分で好きなように戦わせたりとか,そんな感じです。当時の作品はまだ一応持っています。

是非拝見したいです!実際にプロを目指そうとお考えになったのはいつ頃ですか。

高橋さん 子どもの頃から漠然と漫画家という職業に何となくは憧れていたのですが,実際には高校を卒業するときです。自分はサラリーマンには向いていないなと思っていましたので(笑)。ただ,漫画家という職業も実際になるのはなかなか難しい職業なので,なれたらなりたいなという感じでした。

ご家族は賛成してくださいましたか。

高橋さん 賛成ではなかったですけど,割と本人主義というか,好きなことはやらせてもらっていましたので。

当時,高橋先生は野球をされていたということでしたが,サッカー漫画を始められたのはどういう理由からですか。

高橋さん 高校3年生のときに1978年のアルゼンチンワールドカップをテレビで見てからですね。もう単純に,サッカーというスポーツがこんなにおもしろいんだと気付いて,そこからです。

今でもサッカーの試合をご覧になったり,あるいはプレーされたりはしますか。

高橋さん 試合は観ています。自分が実際にプレーするのは,サッカーじゃなくてフットサルですね。

漫画家の道をいざ始められて大変でしたか。

高橋さん 最初は漫画家というよりも先生のアシスタントに入ったので,そこで漫画家とはこういうものだというのを勉強しました。実際,スタッフとしてアシスタントと漫画家さんの下で作業するにあたっても,先輩アシスタントの方もすごく色々とうまいんですよね。自分はぱっと入っただけだったので何の技術もなくて,先輩のアシスタントや先生に教わりながら描いて,最初は何もできなかったので,これで本当に漫画家になれるのかな,難しいんじゃないかなと心配になりましたね。こんなに丁寧に描かなきゃいけないんだとか,こんなに細い線を引けなきゃいけないんだとか,そういう技術的なところです。

アシスタントは何年ぐらいおやりになったんですか。

高橋さん 半年ぐらいです。アシスタントに入りながらも,もう自分の作品は描いていましたが。 平松先生というところに入っていたのですが,週刊連載だったので週のうち3日から4日ぐらいは先生のところに泊まり込みで,2,3日の休みで自分の作品を描いていました。

泊まり込みとは大変ですね!高橋先生の漫画の描き方についてお聞きしたいんですが,作品を描くときは手描きですか。

高橋さん 手描きです。パソコンは今は使ってないですね。後ろに大きなパネルがありますが,これも全て水彩の手描きです(*お写真の背景に写っているパネルです。)。

サッカー選手を描くときに,どなたかを参考にしたりしますか?

高橋さん あまり見ないですね。頭の中で自由に描いています。

漫画のストーリーはどうやってお考えになるんですか。

高橋さん 何となく先の方までこういう展開にしようと考えてはいるんですが,締切のページ数に合わせて話を作らなきゃいけないので,その日,その週に何とか絞り出している感じです。ストーリーについては編集者と相談もしますね。

例えば少年ジャンプだと読者アンケートがありますが,そういったものは意識されましたか。

高橋さん 毎週順位がリアルに出てしまうので,当然意識します。順位が下がると打ち切りになってしまうので,そのプレッシャーは大きいですね。

大変ですね。漫画家をお辞めになりたいと思ったこともありますか。

高橋さん 漫画家を35年やっていますので,まあ辞めたいと思ったこともあるんですけど,基本的に絵を描くことが好きなので,休んでるとまた手を動かしたくなります(笑)。好きじゃないと,こんなに続けられない気がしますね。

漫画家として一番大変なのは何でしょうか。構想とかネームとか作画とか色々あると思うのですが。

高橋さん それはやっぱり締切ですかね(笑)。毎週,毎週襲ってきますからね,確実に。普通の芸術作家さんの場合,締切はあってないようなものじゃないですか。自分の絵や物を作ったり,完成したときが締切ということですよね。でも,漫画の場合はそこまで余裕がないというか,そうやって描かれる方もいると思いますが,連載の場合は締切に間に合わせないといけないですから。

今振り返られて,後悔が残るシーンもありますか。

高橋さん 正直言うと,描き終わって読み返したときにこうしておけばよかったというのはありますね。

現在連載中の「キャプテン翼 ライジングサン」は隔週ということですが,本日のように,アシスタントの方がいらっしゃらないということもあるんですね。

高橋さん はい,現在,アシスタントは4人いますが,お休みのときもあります。「ライジングサン」は多少ページ数が多いんですが,アシスタントが来る前に下描きを作って,ネームを作ったりしています。

代表作の「キャプテン翼」についてお聞きします。連載をお始めになった1981年当時は,いわゆる「スポ根」が流行っていました。でも「キャプテン翼」ではそういった泥臭いところは抑えられていて,「ボールは友達」というのがコンセプトだったと思うんですが,そこは意識されていたんですか。

高橋さん 自分の中のスポーツの考え方として,楽しいからやっているという部分があったので,その部分を押し上げていこうという考えは持っていました。みなさん,楽しいからスポーツをやっているというのが原点だと思うので,その原点を忘れずに,という感じです。根性論を否定しているというわけではなくて,より楽しくしているというのを描きたいなと思っていました。

「キャプテン翼」を描くにあたって,参考にした選手はいらっしゃるんですか。

高橋さん 主人公の大空翼のモデルは,水島武蔵さんという選手です。彼は,当時まだ日本にプロリーグがなかったときにブラジルに渡ってプロになりました。その選手の自伝を読んだりしましたね。

それで翼君はまずブラジルに行くんですね。「キャプテン翼」の中ではサッカーの色んなオリジナルの技が出てきますよね。「スカイラブハリケーン」とか,「タイガーショット」とか,「カミソリシュート」とか。ああいった着想というのは,どうやってお考えになるんですか。

高橋さん 基本,こんなことできたら面白いだろうなというのが原点で,あとは他のスポーツからヒントを得たり。実際にはできないのだけど,漫画だとできるというのが漫画の醍醐味だと思うので,ちょっと誇張して描いています(笑)。

技の名前はどうやって考えるんですか。

高橋さん 技の雰囲気をベースにして,それに丁度合うネーミングをするという感じです。できるだけ,かっこいいインパクトのある技の名前になればと思って,1人で考えています。

2014年には,そのうちのいくつかの技をJリーガーが再現してましたね。ところで,先生の作品にはオーバーヘッドキックがすごく象徴的に出てくるのですが,先生が最初にオーバーヘッドキックを知ったのはどういう経緯なんですか。

高橋さん ワールドカップの試合でペレ(*元ブラジル代表のサッカー選手)とかもやっていたので,その映像を見た記憶があったんでしょうね。

高橋先生の作品中には,ボールを一度ゴールポストに当てて,その跳ね返りをオーバーヘッドするというシーンがあるじゃないですか。あのシーンも実際ご覧になった記憶があったんですか。

高橋さん いえ,あれは見たことないです。私のオリジナルですね(笑)。

そうだったんですね。「キャプテン翼」関連の作品の中で,先生にとってのお気に入りの作品と選手を教えてください。

高橋さん その都度全力で描いているので,読み返してみると好きなシーンだとかこれ良かったなというのはありますけど,特にこの作品がお気に入りというのはないですね。今描いている作品を全力で面白い作品にしようと思って描いていますので。好きな選手についても,漫画を描いているときは,その描いているキャラクターに感情移入しているので,誰が好きかっていったら,その時に描いているキャラクターが一番好きですね。

私は,勝手に高橋先生は石崎君のファンなんじゃないかと思っていました。

高橋さん まあ好きですけどね(笑)。

「キャプテン翼」が世に出て,外国の有名な選手がその作品の影響を受けたと公言しています。それをお聞きになったときはどういうご感想でしたか。

高橋さん 素直に嬉しいのと,自分のサッカー観がサッカーの本場の人にも受け入れられたというのは自信にもなりましたね。自分のサッカーの見方というのはそんなに間違っていなかったんだなと。

高橋先生はどんな選手が好きなんですか。例えば外国の選手でこの選手が好き,というのはありますか。

高橋さん 翼君みたいに,ディフェンスが出来る,パスも出せればシュートも打てるみたいな選手が好きです。今ならFCバルセロナ所属のメッシ選手(*アルゼンチン代表)とか好きですね。

それで翼君はFCバルセロナに入団するんですね(笑)。翼君がFCバルセロナに入ったときに,レアルマドリードから「なんでうちじゃないのか」と苦情がきたというのは本当なんですか?

高橋さん はい,本当です(笑)。でも,もともとFCバルセロナのサッカーが好きでしたから。

日本では,翼君のポジションがミッドフィールダー(*サッカーにおける中盤のポジション)だった影響で,フォワード(*サッカーにおける前線のポジション)の選手が少ないんじゃないかという話があるんですが,高橋先生のご意見はどうですか。

高橋さん 翼君に憧れてミッドフィールダーが人気ということもあるのかもしれませんが(笑),日本人の性格的に「俺が,俺が」という国民性でもなくて,「どうぞ,どうぞ」っていう国民性なので,そういう面が出ているのかなと思います。

「キャプテン翼」の最終ゴールというか,先生の作品で,日本代表がワールドカップ本体で活躍するというのはいつかお描きになりますか。

高橋さん それを夢に翼君は頑張っているので,私もその夢に向かって描き続けていますね。

日本代表の優勝を楽しみにしています(笑)。弁護士についてもお聞きしますと,高橋先生が弁護士を意識される場面というといかがですか?

高橋さん まずはサッカー選手の契約の場面ですね。実力が上がれば色々複雑になっていくと思うので,弁護士の方がサッカー界の中にも入ってきているのかなと思います。あとは,この間,メッシが脱税の容疑で裁判所に呼ばれてたということがありましたよね。そういうところでも活躍されているのかなと思います。

サッカー選手の代理人として,弁護士が「キャプテン翼」に登場する予定はないですか。

高橋さん 今のところ,代理人が出てくる予定はないですね(笑)。

移籍のお話のときとか,ちょっと念頭に置いておいて頂ければと…(笑)。先生ご自身は弁護士の付き合いというのはありますか。

高橋さん 普段は特にないです。契約等の場面で,出版社を介してということはありますが。

最後に,これからの先生の抱負があればお聞きしたいのですが。

高橋さん 今のところ,グランドジャンプという雑誌で「キャプテン翼 ライジングサン」という作品を連載しているので,それに力を注いでいます。新刊コミックも近々第4巻がでるので,是非よろしくお願いします。

是非とも購読させていただきたいと思います。今日はありがとうございました。

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