関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

写真

脚本家
酒井直行さん

とき
平成15年6月24日
ところ
弁護士会館
インタビュアー
川﨑直人(会報広報委員会委員長)
 松村昌人(会報広報委員会副委員長)

 今回のゲストは,脚本家の酒井直行さんです。酒井直行さんは,テレビの火曜サスペンス劇場や「天罰屋くれない」などの二時間ドラマや時代劇の脚本を書く傍ら,小説,映画脚本,漫画原作,ゲームシナリオ(鬼武者),アニメ(ドラえもん等),演劇脚本等の分野で幅広く活躍されています。今回は,日弁連製作のドラマ「裁判員~決めるのはあなた」の脚本をご執筆になられたことから,その御苦労話をいろいろとお聞きしました。

日弁連の裁判員ドラマには,裁判官役に石坂浩二さん,裁判員役に岩崎ひろみさん等有名な方々に出演いただきましたが,そのドラマの脚本を書かれるに至った経緯等お聞かせ願えますか。

酒井さん もともと,子供のころから和久俊三さんの『赤かぶ検事』シリーズなんか大好きで,刑事事件についても,東京地裁で,実際に何件か傍聴したりして興味のある分野でした。名古屋刑務所での暴行事件について,小池振一郎弁護士(第二東京)とお話しする機会があって,小池弁護士が,裁判員ドラマの製作に関わっておられ,今回の裁判員ドラマの脚本を書かせて頂くことになりました。

ご準備は大変だったのではありませんか。

酒井さん 非常に短期間に書かなければならず,資料も大部あり大変でした。裁判員制度については,図書館,新聞記事,インターネットである程度勉強していたんですが,正式にスタッフが決まってからは,毎日のように,日弁連のドラマ委員会から,宅急便とファクシミリで資料の山が来まして。日弁連,裁判所,検察,司法制度改革審議会の報告書等全部いただいて読み込みました。裁判員の人数,多数決の可否等,制度自体が作られていく途中なので,問題点や意見が一致しない点が沢山あって苦労しました。しかも,ドラマ的に成立するものを作らないといけませんでしたし。

ドラマの主人公ですが,何故裁判官にしたのでしょうか。

酒井さん 最初は,日弁連から異論も出ました。「だめに決まっているじゃないか。日弁連がつくるのに,何で裁判官が主人公なんだよ。」とね。でも,裁判員制度というものが,自分たちの職場に新たに入ってくる立場の裁判官が,市民からなる裁判員たちの姿勢とか良心によって,その考えが次第にかわっていくという点が劇的だということで,皆さんの了解を得られました。

裁判員の数とか全員一致制等は,どのような経緯で決まったのですか。

酒井さん 裁判員の数は日弁連主張の数とは違っていますが,これは90分というドラマの制約です。というのも,裁判員は市民ですから,日常生活があって,その人生にもスポットを当てていく話になっていくわけです。なのに,11人も裁判員を登場させると,何人かは,その他大勢になってしまうわけです。それだけはやめようと。脚本監修された市川森一さんも,「ドラマというのはね,7人がいい。キリスト教でも7つの大罪という。『太陽にほえろ』の石原裕次郎以下のメンバーも7人。『男女7人夏物語』だって7人。」と説明されまして。そこで,7人に決めたわけですね。全員一致制についても,まだ決まっていない事項ですから悩みの多いところで,実は,ドラマでも,裁判官に「全員一致だと望ましいんですが」等と若干曖昧にしています。

裁判員ドラマの事案の設定については,どのようなことを考えられましたか。

酒井さん 正味90分しかないドラマで,裁判員制度の啓蒙もしなければなりませんので,争点が幾つもある事案は難しいなと思っていたところ,人を突き落としたという新聞記事を読み,この題材ならば,争点を「突き落としたか否か」だけにすることができ,ドラマに馴染むかなと思い,これに,「嫁と姑」という普遍的なテーマを組み合わせたわけです。証人については,今回のドラマでは,目撃者が2人いて供述が食い違っていて,検察側証人は社会的に信用があるのに,弁護人証人はそうではないという設定にしましたが,これは,実際にあった事件をもとにした裁判員の漫画のアイディアを使わせて頂いたものです。

ドラマの構成を評議中心にした意図は,どのような点にあるのですか。

酒井さん 裁判員制度になったときに一番大事なのが評議なわけです。逆に,審理というのは,今の刑事裁判とほぼ同じだろうと思いました。もちろん,裁判員にも,公判で質問権を認めるという話がありますが,実際には,検事や弁護士のように,裁判員が,いろいろ質問して追及なんかできないわけで,黙って見ていることが多いのかなと思いまして。あと,ドラマ上の構成で,証言等の公判の内容を全て映画の中で描いてしまうと,その後に続く評議が二重になってしまうという問題もありました。そこで,全部,審理を終えた上での評議という形。これは「12人の怒れる男たち」という映画も同じパターンを使っているので,これでやってみようということになったのです。

裁判員制度についての漫画の原作の製作も現在進行中ということですが。

酒井さん 主婦・OL向けの漫画雑誌「YOU」に,「裁いてみましょ。」というタイトルで,「きら」さん作画,僕が原作という形で,今年の7月からスタートすることになりました。裁判員制度について,深く追求すれば追求するほど,色々な穴が見えてきて,漫画では,その部分をクローズアップしていきたいと考えています。例えば,偏見と先入観の怖さ,控訴審では裁判員はどうなるのかとか,かつて人を殺した人間でも裁判員になれるのかとか,裁判員の中に知り合いがいた場合とか,評議が二日間に渡った場合に評議内容を家族に喋ってしまった場合とかという話です。

最後に,裁判員制度についての提言のようなものがあればお願いします。

酒井さん ドラマでも描かれていましたが,裁判員は,最初は,なかなか話をする方がいないので工夫が必要かなと思います。裁判員一人一人が意見を言わないうちに,特に意見がないとして,裁判官が全部決めてしまうのでは,何のための裁判員制度かということになります。また,量刑について裁判員が決めるということになると,無期懲役と死刑の間に,終身刑があった方が良いかなとも思います。
 今回のドラマでは,弁護人は,余り重要な役回りとしては描かれていないんですが,実際には,裁判員制度の場合,熱意を持って被告人を弁護するとなると,片手間仕事では,できなくなると思うんですよね。ですから,裁判員制度で,例えば半年間の準備期間が要る場合,国から,ある程度その間の手当を弁護士に支給して,公判の準備をしてもらうような制度も設けたほうが良いのではないかと思います。

本日は,どうもありがとうございました。

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