関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

写真

棋士
  森下卓さん

とき
平成15年7月4日
ところ
東京都中央区
インタビュアー
川﨑直人(会報広報委員会委員長)

 今回のゲストは,棋士の森下卓さんです。森下さんは,昭和58年に17才でプロ棋士,平成6年に八段になられ,タイトル戦にも六回登場された将棋のトッププロのお一人です。森下システムという体系を作られるなど非常に研究熱心な方として知られています。本日は,現在の将棋とプロとしてのあり方について,いろいろとお聞きしました。

将棋のプロを目指したきっかけについて,お聞かせ願えますか。

森下さん 小学校四年生のときに父親に教えて貰ったのがきっかけで,その後,将棋の道場に通いました。将棋が好きでしたので,一日中でも将棋をしていましたが,12才のときに,奨励会の試験を受けてみたところ思いがけずに受かってしまいましたので,祖母と一緒に東京に出て,修業することになりました。

師匠はどなたについたのですか。

森下さん 私は九州出身ですが,道場の先生から花村元司先生を紹介して頂き,弟子入りをしました。花村先生からは,プロとしての心構えとして,対局を最優先すること,狭い世界なので人間関係を大切にすること,先約が優先するということを教わりました。奨励会の間に千局以上を教えて頂き,技術的なことも教わりました。花村先生が比較的時間があったためだとは思いますが,これだけ実戦を教えて頂く例は少ないのではないかと思います。

現在の奨励会は非常に厳しいと言われますが,当時の奨励会はいかがでしたでしょうか。

森下さん 25年前のことですが,当時は,10人奨励会に入れば,2~3人はプロになれましたが,現在は,1~2人しかプロになれません。当時は,アマの三段位でも入れましたが,今はアマの五段以上なければ入れませんし,最後の三段リーグは上位2名(年に二回リーグ戦が行われるので年に4名)しかプロになれませんので地獄のような厳しさがあり,その厳しさを知っていますから,奨励会入りしたいという方には止めた方がよいと言っています。現在の私でも,三段リーグで7割勝てない位の高いレベルの戦いです。私は,17才でプロの四段になれましたが,五段になるまでに五年かかり,そのときは地獄のように思いました。地獄を抜けて四段になっても,その先が厳しいわけですが,そこで気が抜けて伸びなくなる人もいます。

将棋の勉強とはどのようなものですか。

森下さん 実戦,棋譜の研究,詰め将棋を解くことの三つが基本で,あとは,強くなりたいという熱意のもとで,いかに質を高くし,量を多くするかということです。若い頃は,午前3時とか4時に起きて勉強しましたが,現在では5時位に起きています。早起きするのは,他に邪魔されることがなく集中できるからです。19才から25才位までの頃は,1日12時間以上勉強したでしょうか。誰よりも勉強しているということが自信に繋がったと思います。
  棋譜の研究では,私のころは,中原・米長百番勝負の棋譜を全部覚えるということをしました。現在で言えば,羽生・谷川百番勝負の棋譜ということですが,その時点の最高のものですので,手本になることが多いのです。そのときは覚えるだけでも,力がついてくると意味が分かってきました。

研究会をなされているわけですか。

森下さん 数人の若手と研究会をしています。実戦が多いですが,指定局面を研究することもします。戦術が日々進歩していますので,その情報を得るということもありますし,一人だけだと独善に陥る危険がありますので,それを避けたいということもあります。若手と研究するのは,自分にはない感覚があるからです。最近は,研究会を整理して,週に1~2回はスポーツなどでリフレッシュしたいと思っています。

棋譜のデーターベースができ,コピー将棋と言われるように,同じような形の将棋が増えていると言われていますが。

森下さん データーベースにより検索が便利になったことは確かですが,それだけのことで,そこから自分で考えなければ強くはなれません。よくコピー将棋と言われますが,どのように指しても一局だという昔と違って,将棋界全体で突き詰めた研究がなされており,相当なところまで双方が最善だと思っていると,同じような形の将棋が多くなり,新しい工夫が出ると,すぐに研究され尽くされますので,どんどんと細かくなっていきます。見る方からすると,昔の将棋の方が個性があって面白いと思われるかもしれませんが,それが進歩ですからやむを得ないと思います。その進歩に付いて行けないと,そもそも戦いになりません。

プロの読みの内容は,どのようなものでしょうか。

森下さん 終盤で読みきれる局面ならばどこまでも読みますが,序盤,中盤では答えがないわけですから,出来るだけ読んだ上で,自分の大局観に基づく形成判断をして最善だと思う手を選ぶことになります。ある局面で,こちらの手が五通り位あり,応手が五通りくらいあり,それぞれについて全部検討していくと,数手先でも天文学的な数字となり,プロでも全部を読みきれるものではありません。勿論,悪手や意味のない手を読むことはありませんが,それでも10手先の局面を正確に読めるというのは至難の技ではないでしょうか。ただ,普通のプロであれば,この程度は読めるというレベルがあって,その部分は余り違いはありません。それがなければプロになれません。実戦の100手~120手の将棋でいえば,一人が50~60手を指すわけですが,その中の2~3手を相手より少しだけ深く読めるかという部分で勝負が決まるように思います。人が15手先を読めるところを16手まで読めればいいわけです。私は水泳が好きなのですが,金メダルを取る人と次の人は0・数秒しか違わないわけですが,それが大変な違いなわけです。プロの将棋もそのようなものだと思います。定跡は9割以上正しいのですが,基本を押さえた上での創造力が必要なわけです。羽生さんは,その部分が凄いと思いますし,羽生さんと同じ世代で強い方が沢山います。才能がある上に日々大変な努力をしています。その世代が四~五段のころは,八~九段を負かしていましたが,その世代がそのまま八~九段になり,中々負けませんから,今の若手が,その厚い壁を破るのは大変なことです。私も,常に高い目標をもって,全力を出しきって,完全燃焼したいと思っています。

司法界について何か感想があればお願いします。

森下さん 医療の分野では,医師の身内には抗癌剤を使わないが,病院の方針で患者には抗癌剤を使う例があると聞いていますが,本末転倒なわけです。それと同じように,やはり国民のための司法であって欲しいですね。カタカナの条文は読みにくいですから,誰にとっても分かりやすいものがよいです。オウム裁判をみても,裁判には時間がかかりすぎますので,もっと迅速にできないのかなと思います。

本日は,どうもありがとうございました。

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