関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

写真

棋士
島 朗さん

とき
平成15年11月5日
ところ
東京都中央区
インタビュアー
川﨑直人(会報広報委員会委員長)

 今回のゲストは,棋士の島朗さんです。島さんは,昭和55年に17才でプロ棋士,平成6年に八段になられ,タイトル戦に6回登場され,竜王のタイトルを取られたことがある将棋のトッププロのお一人です。テレビでコメンテーターをなされたり,執筆活動を精力的にされるなど幅広い活躍をされています。横浜弁護士会では,1年に一度将棋の指導をされています。本日は,現在の将棋とプロとしてのあり方について,いろいろとお聞きしました。

将棋のプロを目指したきっかけについて,お聞かせ願えますか。

島さん 小学校2年生から後に師匠になる高柳名誉九段の道場に通い,将棋を指して強くなっていく中でプロになろうと思いました。師匠の道場では,途中から受付を任されていました。当時,週末には1日に200人位のお客さんが来ており,今と違って,中高年にも非常に熱気がありました。受付では,カードなどで,お客さんの対戦の組み合わせをしていました。その中で,普通の小学校で習う漢字を覚えましたし,計算の練習にもなりました。社会的な道徳やマナーも,無理のない形で子供のころから学べたように思います。最近の若い世代では,そのような機会が中々ないと思いますし,将棋界では上司という存在がありませんので,このような経験をさせて頂いたことに感謝しています。道場で力をつけて,中学に入るときに奨励会に入ることができました。師匠には沢山の弟子がいましたので,その方々からも,いろいろなことを教えて頂きました。
 小学生のころは内向的な性格で運動が苦手だったのですが,私が通っていた中学は,水泳などの校内イベントに力を入れていましたので,いい方向に導いて頂けたと思っています。高校を卒業する少し前に四段になりましたので高校は中退しましたが,友人も沢山できましたし,高校に通っていてよかったと思います。

将棋の読みとはどのようなものですか。

島さん 持ち時間の長短によりかなり異なりますが,面倒さを厭わずに読むことが基本で,最善手に早く正確に到達できればいいわけです。長く読むより数手先を確実に読むのが大切です。若い頃は反射神経がありますし,余り迷いがなく,決めつけて指していたこともありますが,経験を積むに従って,恐さが分かってきて,読みが慎重になり,構想を練る時間が増えています。実戦では,恐いけれども踏み込まなければならない局面があるわけで,その不安に打ち勝てるかがポイントです。将棋の手の選択肢は広いですから,自分が読みきれないものを相手も読みきれるわけがないと考えるのが健全ですね。決断よく,ミスを恐れずに前に踏み込めるときの方がよい結果を呼び込むものです。また,トップクラスのプロでも3割は負けるわけですから,結果を後に引きずらないことが大切です。羽生さんは,負けたときでも,気持ちに切り替えが早く,反省はしても後悔はしないという点で卓越したものがあります。

島さんは,羽生さん,森内さん,佐藤さんをメンバーとする島研という研究会を主宰され,メンバー全員が名人又は竜王のタイトルを取られているわけですが,どのようなきっかけで研究会を始められたのですか。

島さん 研究会を始めたのは,羽生さんが四段,佐藤さんと森内さんが奨励会の二~三段のころで,私が六段のときです。当時対戦しておりタイトルを取っていた同期のプロより彼らの方が既に上だと感じました。その頃のプロの実戦は,どのように指しても一局だという意味で,漠然としたところがありましたが,彼らは論理性が際立っており,いい意味でのデジタル化が非常に進んでいました。これが正統派の将棋であり,将来間違いなくトップに立つ将棋だと思いましたし,その通りになっています。結果として自分も彼らに大変な好影響を受けました。また,羽生さん世代は,将棋に対して純粋かつ真剣に取り組んでいるだけではなく,清廉であり,どの世界よりも誇れる素晴らしい人間性があります。私はトップに立つ人は将棋が強いだけではなく,良き社会人として通用しなければならないと考えていますので,彼らがトップにいるということは将棋界にとっても幸運だと思います。若手でも強い方が沢山出てきていますが,ぜひ羽生さんたちを見習って欲しいものです。
 プロならばある程度の技術は誰でも持っているのですが,日頃の積み重ねの中で,人間としての器が大きいと認めさせれば,そこで,勝負の半分位が決まっているように思います。

日曜日の午前8時からの徳光さんが司会をされているザ・サンデーという番組にコメンテーターとして出演されていますが,どのようなきっかけで出演されるようになったのでしょうか。また,どのような観点からコメントをされているのでしょうか。

島さん 石井浩郎さんというプロ野球の選手と同じスポーツクラブに通っていたことから,番組の中で江川さんと石井さんの将棋の対局の解説をさせていただいたことがきっかけとなって,1カ月に一回位出演しています。将棋界を世の中に認知して頂くことが目的ですが,勝負を通しての見方からコメントをさせて頂いています。例えば,プロでいえば,自滅することは大変恥ずかしいことですし,自分の駒が邪魔をしているときなどは情けなくなります。立派な会社が,競争でライバルに負けるのではなく,内部告発で駄目になる例が最近よくありますが,勝負でいえば,自滅しているようなものだとコメントさせて頂くとともに,自戒とさせて頂いています。将棋でいえば,ベストを尽くして負けるのは仕方ないのですが,ベストを尽くしているか否かについて自分を誤魔化すことはできません。自分に誤魔化しのあるような負け方を出来るだけなくすることが大事です。

例えば,市民が裁判に参加する裁判員制度については,どのような感想をお持ちでしょうか。

島さん これはザ・サンデーでも話したことがあるのですが,ある著名な医者が,難病の誤診率は4割位あると講演会で言われて,患者からすると,4割も誤診率があることに驚いたらしいのですが,研修医や関係者は,「さすがあの先生,4割しか間違いない」と尊敬を増したという話があります。将棋でも神様が100だとすれば,プロでもおそらく10も分かっていないわけですし,アマでもプロに勝つ方がいます。プロもアマから学ぶことはあるわけですが,裁判でいえば,アマが市民感情をストレートに結論に結びつけるのではないかということを恐れます。将棋でも,単発的にはアマがプロに勝つことはありますし,勝ってもおかしくないのですが,リーグ戦など,長い戦いになると,プロがトータルで力を発揮して,プロが勝つと思います。私は文章を書くのが好きで本も出していますし,テレビでも話しているのですが,やはりアマであり,底力となると,文書を書くプロ,話すプロには到底かないません。やはり積み重ねがあるプロの方は違いますし,そうでなければプロとは言えないと思います。私は,1年に一度,横浜弁護士会に行って指導将棋をしていますので,弁護士の方と比較的話す機会があるのですが,精神的,肉体的に大変な仕事だと思っており,プロの厳しさという点では棋士と似ている点があるように思います。先を見据える力という点ではプロとアマとは違いますが,プロにも限界があり,その限界を市民が参加してカバーする必要があると思いますが,市民は感情に流されることがあるのではないかという点で怖さを感じますので,プロの存在も必要なわけで,全体として徐々に良い方向に持っていけたらよいのではないでしょうか。

本日は,どうもありがとうございました。

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