関東弁護士会連合会は,関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

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棋士
  小林千寿さん

とき
平成15年11月10日
ところ
数寄屋橋囲碁倶楽部
インタビュアー
平成15年度会報広報委員会 委員長 川﨑 直人
 会報広報委員会 副委員長 松村 昌人

 今回のゲストは,囲碁棋士の小林千寿さんです。小林さんは,プロ棋士として活躍するほか,NHKの「囲碁講座」,「囲碁将棋ウイークリー」の司会も務められ,海外の囲碁ファンや子供に対して囲碁を教えられるなど,幅広い活躍をされています。本日は,囲碁にまつわる話題だけではなく,ご自身の法律体験等も含めてお聞きしました。

囲碁を始められたきっかけは,どのようなものだったんでしょうか。

小林さん きっかけは,父親が碁が好きで,木谷実先生のお弟子さんとうちの父がご縁があったことでしょうか。私が碁を覚え始めたのは4歳半のときで,6歳のときに木谷実九段の内弟子に入りました。その後,16歳の夏に試験に受かって,17歳の高3の4月からプロになりました。弟3人(孝之,健二,覚)もプロになっています。

内弟子生活では,どのように勉強されたんですか。

小林さん 木谷先生のところは,10人から15人の内弟子がいたほか,通い弟子といって自宅から通っているような人もいました。お子さんも多く,2番目の方は木谷明さんといって,裁判官になられています。木谷先生の囲碁指導の中で一番印象が強いのは,夕飯の後に,その人のレベルに合った詰め碁の問題を渡されて,解けると先生の部屋に伺って,自分で説明するというものでした。でも,先生はどこが間違っているとは絶対言われない。ただ丸とバツだけ。バツをもらったらまた戻って,また自分で考えてから,伺うんですね。で,丸をもらうと次の問題をもらうということをしました。そのほかは,兄弟弟子と,たくさんリーグ戦で打てるだけ打って,兄弟子たちが打っているのを見たり,棋譜を並べたりしました。そのような中でプロの空気が吸えたと思います。

アマチュアの方で,インターネットやパソコン等で囲碁を楽しむ方も増えているようですが,そういう広がりもあるんでしょうか。

小林さん それはもちろんあります。5年くらい前に,フランスで,当時,12歳程度の子供が,インターネットだけで,人間と直接打たないで日本のアマチュア三段相当になりました。でも,みんな,顔を知らない。その子はまだ子供らしいとうわさを聞いて,私は現地まで会いに行って,囲碁を打ってきたりしたんです。それが新しい世代ですね。それまでは,やはり西洋人でも,まだ顔を見ながら打って強くなっていったのが,子供で,ネットだけで強くなったのがいるって驚きでした。その反面で,コンピュータの囲碁は,まだ弱いです。というのも,将棋やチェスと違って,碁の場合は王様がないですよね。ということは,逆に言えばどの石をとられても負けない,どの石を捨ててもいい。その価値観は,人間が,自分で決めていくんですね。

海外でも,活躍されているということですが。

小林さん 高校を卒業して,すぐに,日本棋院から,ヨーロッパに派遣されました。そのとき感じたことは,碁の場合は,通訳の人が通訳すると,その人の碁のレベルで通訳されます。21歳のときにヨーロッパで仕事があって,そのまま約3カ月間滞在しました。ヨーロッパで,知り合いの碁を打つ人たちのところなどで,大体,英語を覚えました。アメリカにも半年くらい囲碁普及に行きまして,英会話については,私は世界中の碁を打つ人たちから習ったことになります。

囲碁という特殊な世界だと,なかなか翻訳しにくい言葉とかあるんですか。

小林さん ありますよ。20年くらい前,アメリカで『SHIBUMI』っていう本がベストセラーになったんですね。それは碁の用語を使ったロマンサスペンスなんです。鶴の巣籠もりとかシチョウとかって。『SHIBUMI』(渋み)っていうのは,私にとっては最初に日本語を囲碁界の人に広めたみたいな感じがありました。碁の状況で,こういう手が渋いんだよっていうので,みんな,やたらと専門用語が使いたいから「渋い」とか使っていました。あと,囲碁で「利かし」という用語がありますが,日本語の利かしは,良い交換の先手を「利かし」っていいますが,自分が打って相手が受けたために自分が損することも多いんですよ。それは,利かしと言わずに,私は「ウェスタン・きかし」とか言って,冗談をまじえて伝えたりしました。

外国の囲碁の状況は,どうですか。

小林さん 20年近く前から中国は囲碁ブーム,韓国や台湾でも,10~15年前から子供の間で囲碁ブームが起きています。囲碁の定石も変化していますが,碁の場合は国際化していますから,すごく変化が加速してるんですね。この10年,中国,韓国のトップレベルに達した人たちの間で加速されている。そして,国際戦は持ち時間が大体3時間で,1日おきに2回戦くらい打ったりするんで,体力の使い方が全然違うという面もあります。
 ヨーロッパのほうでも愛好者が増えているようです。大学のインテリ層に囲碁が広まって,今,大体50代くらいの人が各国では碁が強くなったはしりです。私の場合は,たまたま10代のときからヨーロッパからアメリカとか,中国とかいろいろな国々へ囲碁関係で行きました。小さなときから,碁のプロになって世界中に行くんだって思っていました。共通語は英語なので,囲碁も,英語で教えています。

最近の日本の囲碁ブームについて,どう思われますか。

小林さん この1年で院生の数が増えつつあるのは『ヒカルの碁』効果です。『ヒカルの碁』で覚えた子たちがアマチュアの五,六段になって,院生を目指しているということで,子供の囲碁人口が急増しています。

子供さんの場合,囲碁の覚えはどうでしょうか。

小林さん 幼稚園くらいの子のほうがずっと囲碁の覚えは早いですね。10歳過ぎると,記憶力というか,頭で覚えようとしてしまう。10歳以下は体で覚えますが,大人になるとできない。図形的な感覚は,小さいときのほうがずっと豊かです。

子供さんの場合,騒がしいということはないでしょうか。

小林さん 私は,子供教室が少々うるさくても,「静かにしなさい」とは言わないんです。碁に集中していくとだんだん静かになって考えるので,問題を出して集中させるとか,そういうふうにしています。ただ,最近は,子供に碁を教えていると,子供たちがすごく現実社会でストレスを受けているように感じます。どこかで囲碁と相性があえばよいのだと思っています。囲碁の場合,意外としゃべらなくていいですから,黙々と打って相手を負かすというのが,一つの自信になっていいのではないかとも思います。負けても,ハンデを増やせば,次は勝てるわけです。

法律との接点は,ありますか。

小林さん わりと身近に弁護士がいたという関係です。母の弟や,母の父も弁護士でした。笠井さんという囲碁棋士と弁護士とを両方されている方もいます。

法律の紛争に巻き込まれたことは,ありますか。

小林さん 私自身では,車で追突をされたときに,弁護士に頼んだことがあります。囲碁棋士の場合,サラリーマンと違って,休業損害が特殊な関係で,保険会社の方も,裁判案件だと言っていました。あと,これは,知合いの方ですが,刑事事件に巻き込まれたこともあります。その件では,弁護士の先生でも,弁護士畑から行かれた方,検察畑から弁護士になられた方,裁判官からなられた方からと,それぞれ違う意見を伺ったことがあって驚きました。例えば「起訴されると,無罪になる確率がすごく低いから,その前にいろいろ手を打つべきだ」という方もいる反面,「検察側と話をしてはいけない」という方もいて,どっちがほんとうかわからないということがありました。それで,感じたのは,結局,人間がつくった法律で,人間が裁いて,人間が弁護してやっているんだなってことでした。

裁判員制度が刑事事件に導入されようとしていますが。

小林さん もし,自分が,裁判員とかに呼ばれて判断しろと言われたら,判断は,やっぱりその事件によりけりでしょう。でも,やっぱり庶民としては弱いものの味方になるでしょうね,基本的に。判断に困ることっていっぱいあるんでしょうけど,基本的には,その判決が下されたことによって,その人たちの生活がよりよくなるか否かで判断するんだと思うんですね。もともと法律は人間のよりよき生活の為に作られたものだと信じています。

本日は,どうもありがとうございました。

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