関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

「関弁連がゆく」(「わたしと司法」改め)

従前「わたしと司法」と題しインタビュー記事を掲載しておりましたが、このたび司法の枠にとらわれず、様々な分野で活躍される方の人となり、お考え等を伺うために、会報広報委員会が色々な場所へ出向くという新企画「関弁連がゆく」を始めることとなりました。

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フリーライター
北尾トロさん

とき
平成22年4月28日
ところ
みどり共同法律事務所(新宿区)
インタビュアー
会報広報委員会委員長 鈴木 周

 今回の「わたし」は,フリーライターの北尾トロさんです。北尾さんは1958年福岡県生まれ,高校2年のときに東京に引っ越し,82年に法政大学を卒業されました。卒業後はアルバイトを経て26歳でフリーライターとなり,主にスポーツ関連の記事を書いていらっしゃいましたが,30歳の頃から北尾トロのペンネームでいわゆる裏モノの記事を書かれるようになりました。その流れで,鉄人社の「裏モノJAPAN」に2001年から連載を始めた「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」が,文庫化後なんと60万部の大ヒットとなり,当業界のみならず出版業界にも衝撃を与えました。そのほか,99年からはネットの古書店「杉並北尾堂」を経営されており,古書に対する造詣も深く,現在は長野県伊那市高遠町で「本の町」プロジェクトに取り組んでいらっしゃいます。

北尾トロさんこんにちは。本日は宜しくお願い致します。
 トロさんは,大学を卒業後,しばらくフリーターをされていたようですが,ライターを志したのはいつ頃だったのでしょう。学生の頃からですか。

トロさん いや,学生のときから会社組織には向いていないと思っていましたので,就職するつもりはなかったんですが,逆に特に何かになりたいというのもなかったのです。卒業して1年半経った頃,ある編集プロダクションでアルバイトしていた後輩が辞めることになって,「先輩,ヒマでしょ?」ということで,出版業界に足を踏み入れたんです。まあ,半年くらいで辞めちゃったのですが,ここで雑誌記事の作成を垣間見たことで,ライターをやってみようかなと思うようになりました。

フリーライターになったのは26歳のときですか。こんな若い時分にフリーになって,最初は随分ご苦労されたでしょう。

トロさん そりゃそうですよ。フリーライターって看板出しても,それで仕事が来るわけじゃないですからね。駆け出し時代は,きた仕事は何でもやる感じでした。原稿買い上げ方式で,当時好きだった競馬関係のハウツー本を書いたのが単行本デビューです。

26歳だと84年ですか。ミスターシービーとかシンボリルドルフの頃ですね。

トロさん そうです。シービーに乗ってた吉永正人なんかも好きでした。好きでしたが,ああいう展開待ちの馬って,ロマンはさておき馬券当たらないじゃないですか(笑)。自分でも,「ああ,競馬は難しい,ライバルも多いし,これで食ってくのは難しいかも知れない。」と思って,路線変更して,ツテのあったスポーツ関係の雑誌に記事を書くようになったんです。80年代後半かな。スキーとかテニスとか。テニスのウィンブルドン大会へも取材に行きましたよ。

ベッカーとかグラフがいた頃ですね。テニス歴はどのくらいだったんですか。

トロさん いや,実はやったことないんです(笑)。ですから,技術的なことは一切書けず,もっぱら観戦記ですよ。お察しのとおり,スキーやテニスの雑誌って,関係者はインターハイとかインカレクラスの選手がゾロゾロいるわけですよ。それですごく先輩後輩の厳しい縦社会なんですね。ぼくはそこについていけず,何年かでやめちゃいましたが,いまから思えばいい経験になっています。

それからはどうされていたのですか。

トロさん ノンフィクションをやっていきたいと思って,別冊宝島などで仕事をするようになりました。当時の別冊宝島は若手ライターの登竜門みたいなもので,今ではビッグネームになった人も多くいて,楽しかったですよ。そういえば,別冊宝島で「弁護士さん物語」の記事も書きました。

あ,それ持ってます。修習生のときだから平成6年に買いました。トロさんが記事書いておられたのですか。家に帰ったら確認してみます。あの頃と今の業界ではだいぶ変わってしまっていますけどね。

トロさん それから,体験型のノンフィクションがおもしろくなり,怪しい通販グッズの使用リポートをしたり,裏っぽい職業人のインタビューをやるようになり,2001年から,「裏モノJAPAN」の連載で法廷傍聴ものを書き始めることになるんです。

それをまとめたのが,「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」ですね。私も以前に買ったのですが,年末にブックオフに出しちゃったみたいで,今回また買いました。

トロさん 延べ2冊とはいいお客さんですよ(笑)。ありがとうございます。

これ確か60万部も売れたんですよね。裁判所地下にもありました。この種の本としては,もう爆発的なヒットなんじゃないでしょうか。

トロさん そうだと思います。単行本のときはサッパリでしたけど,文庫になったら急に売れ出したんです。関係者も「オイ,店頭に平積みになってるぞ」ってビックリしてました。表紙のイラストのインパクトも大きかったですね。

まさか著作権買取ですか。

トロさん いや,幸い印税方式で(笑)。すごく嬉しかったです。 

それはおめでとうございます。それで,内容拝見していて思ったのですが,この本では小さな事件から社会的な大事件まで万遍なく傍聴しておられますが,基本的には軽いノリというか,エンタメ系の作りになっているわけですよね。

トロさん そうですね。 

だけど,読み進むのがすごく大変なんです。面白いけど,苦しいんです。これは一体なんなんでしょう。

トロさん それはやはり,それぞれの事件に重い人間ドラマがに詰まっているからだと思いますよ。実際上,どの事件もどの人たちも,「これで失敗したらムショ行きかも」っていう人生ギリギリのところで攻防しているわけじゃないですか。だから被告人も証人も必死になって頑張るわけで,見ていて常にストレスはたまりますよ。裁判所からして,なんか重苦しい雰囲気の建物ですしね。 

そういえば,以前インタビューさせて頂いた辛酸なめ子さんが,「裁判所には負のオーラが漂っている」とおっしゃっていました。我々は仕事場なのでよくわからないのですが。

トロさん ああ,それいい表現ですね。私なんかも一日法廷傍聴が終ると,ぐったり疲れますし,肩になんか憑き物でもついていそうな気になります。娘が小さいし,家庭に持ち帰りたくないので,パッパッと払い落としたいくらいですよ(笑)。 

でもやっぱり法廷傍聴は面白いのですよね。

トロさん もちろんです。仕事でやっている面もありますが,これほど人間の欲望とか人格とかプライバシーなどが赤裸々になってしまうものは他になくて,大変興味深いですね。いわゆる法廷傍聴マニアと言われている人は,みんなそこに惹かれるのだと思います。それにしても,窃盗の事件で,離婚の履歴や原因なんかが追求されているのをみると,「一体なんの関係があるんだ。」と思いますけどね(笑)。

裁判員裁判がスタートして1年経ちますが,従来の裁判と変わった点は感じますか。

トロさん これまでに3件傍聴していますが,基本的な点で大きな変化はないように思います。件数がまだ少ないせいかも知れません。ただ,検察官にしても,弁護人にしても,裁判員に対するアピールをすごく意識しているのは感じますね。弁論要旨なんて,普通は紙を読み上げるだけですが,ちゃんと裁判員を見ながら口頭でやるようになりましたものね。あと,検察官がモニター画面での説明をよく使うようになったのですが,あれはどうなんでしょうね。裁判員は全員モニターを見たまま目を離さないんですが,そういったビジュアルにした証拠を突きつけられたときの被告人の表情の変化とか動揺とかすごく大事なわけじゃないですか。さすがに裁判官たちは,すぐに被告人の表情を確認していますが,裁判員はサッパリですね。このあたりはもう少し見せ方の工夫が必要だと思います。

裁判員制度になったら,大岡裁きじゃないですけど,市民的な目線に沿った量刑も増えるんじゃないでしょうか。例えば,「裁判長!」に書いてあった事件で,統合失調症で暴力癖のある息子を老齢の母親が殺してしまったような事例,これは実刑3年ついたわけですが,裁判員裁判だと執行猶予がつく可能性もあるんじゃないでしょうか。

トロさん それはそうかも知れません。逆に,性犯罪なんかは重罰の方向に行くかも知れませんね。市民感覚が導入されることで,これまでの実務の量刑相場とは変わっていくのでしょうね。裁判官も,「裁判員がそう言うんなら」ということで,立場もたちますしね。

裁判員に選ばれたらやってみたいですか。

トロさん それはもちろんです。まあ,素性がバレると面接で落とされるかも知れませんが(笑)。裁判員の皆さんを見ていると,回を追うごとに,また休廷を挟むごとにチームワークが高まっていくのが分かるんですよ。端っこの人が質問でつまずいたりすると,すかさず対面の方が目配せ送って修正をしたりとか,ああいうのはいいですね。濃密な時間を共有しているのが分かります。

でも,記事には出来ないんですよ。トロさんが裁判員になったことはすぐに知れるわけですから。

トロさん そうか,何にも書けないのか。守秘義務か。まあそれでも貴重な体験ですし,やりたいという気持ちには変わりはありませんね。

ライターのほかには,今どのような活動をされておられますか。

トロさん 実は私,本が大好きなものですから,ライターのほかにネットで古書店もやっておりまして,その関係で長野県伊那市の高遠町で「本の町」を作るプロジェクトを進めています。古書で町おこしをするわけです。ヨーロッパなんかではいくつもあるんですが,日本にはまだないのですね。

相当不便そうですが,宿泊とか食事とかは大丈夫ですか。

トロさん 第三セクターで宿泊施設はあります。ですが,それと別にレストランとかショップを作るのは必須ですね。やっぱり古書好きのお父さんが夢中になっている間に,お母さん方はまた別のところで遊んで貰わないと,間が持ちませんから。そうでないとお父さんも誘い難いでしょうし。ただ,これは急にできるものではなくて,5年とか10年のスパンで進めて行こうと考えています。そう考えると,実際の運営は,我々ではなくて,一つ下の世代が中心になっていくのでしょうね。

トロさんはアドバイザーというかスポンサーというか,そういう立場で関わっていくのでしょうか。

トロさん スポンサーというような大袈裟なものではありませんが,ライターで稼いだお金は,スーッと本の町に流れて行ってしまいますね。でもやりがいがありますよ。2010年9月18日~23日まで,第2回高遠ブックフェスティバルも開催しますから,興味のある方は是非いらしてください。

これからもご活躍期待しています。本日はどうもありがとうございました。

書籍表紙書籍紹介
書名 『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』
著者  北尾トロ
出版社 文藝春秋(文春文庫)
出版日 2006年7月10日

長野県伊那市高遠町「本の町プロジェクト」
公式ホームページ
『本の家』http://hon-no-machi.com/

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