関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

シンポジウム

平成24年度 外国人の人権-外国人の直面する困難の解決をめざして

平成24年度シンポジウム委員会
事務局長 髙貝 亮(静岡県)

1 はじめに

 2012年9月21日(金)午前10時より,千葉県千葉市海浜幕張のホテルニューオータニ幕張において,「外国人の人権-外国人の直面する困難の解決をめざして」をテーマとして,2012年度関弁連シンポジウムが開催されました。佐野善房理事長の開会挨拶のあと,35名の一般参加者を含む551名の参加者を得て,基調報告とパネルディスカッションの2部構成でシンポジウムが行われました。

2 基調報告

(1)出入国管理行政における諸問題の解決にむけて

 高橋ひろみ委員(第一東京)より,入管法の概要と入管収容所問題の現状,更には当該分野における弁護士の取組みについて報告されました。入管収容所における長期収容や医療上の問題,仮放免後の生活の問題が明らかにされるとともに,弁護士としての活動内容が具体的に紹介され,新たに取り組もうとする弁護士にとってのガイダンスにもなった報告でした。

(2)外国人労働者の直面する問題とその解決に向けて

 髙井信也委員(第一東京)より,中国人研修生・技能実習生,南米日系人,ALT(語学補助教員)の各外国人労働者の現状と問題点について報告されました。成田空港における中国人研修生の強制帰国シーンの動画上映では,参加者がその衝撃的な無法状態に息をのんでいました。弁護士による救済が強く求められている分野であることがよくわかる報告でした。

(3)多文化・多民族共生社会における法と弁護士の役割

 山下雄大委員(栃木県)より,外国人の子どもの教育と渉外家事事件への取組みについて報告がありました。いずれの分野も,在留が長期化し日本に生活基盤を持つようになった外国人市民にとって大変重要な問題となっている分野であり,真の多文化共生のために重要な分野です。教育分野では民族教育の権利の確立や外国人学校に対する経済的支援などが,渉外家事分野においては,弁護士のスキルアップと言語や費用の問題解決の手がかりが提示されました。弁護士の多文化共生社会の実現に果たすべき役割が明らかにされたものと思います。

(4)ヘイトスピーチ規制立法に向けて

 三宅貞信委員(千葉県)より,京都事件を題材に,現代排外主義の危険な状況について報告されました。また,ヘイトスピーチ規制に関する国内外の最新の議論と諸外国の立法状況の紹介と,ヘイトスピーチ規制についてのシンポジウム委員会の提言がなされました。表現の自由への配慮をしつつ,マイノリティの尊厳を確保するため,現行法の限界を克服する具体的な立法提言として条文案が示され,今後の当該分野における議論の足がかりとなる成果が提示されました。

(5)弁護士へのアクセス

 最後に渡邉祐樹副委員長(埼玉)より,弁護士へのアクセス問題について報告されました。弁護士へのアクセスが困難になっている事情として,言葉の問題,アクセス先が知られていない問題,費用の問題があり,それを克服するための手段として,通訳人を配置した無料法律相談の実施と広報,担当弁護士名簿の整備,自治体及び国際交流協会等との連携などが提案されました。また,当連合会外国人の人権救済委員会の取り組みについても紹介されました。

3 パネルディスカッション

 「外国人事件への弁護士の取り組みの拡充のために」をテーマに,指宿昭一副委員長(第二東京)をコーディネーターとして,渡邉彰悟会員(第一東京),東京外国語大学多言語・多文化教育研究センタープロジェクトコーディネーター杉澤経子氏,駒井知会委員(横浜)の3名のパネリストによるディスカッションが行われました。杉澤経子氏のコミュニティ通訳の取り組みが大変興味深く,また,第一人者の渡邉彰悟会員と若手の駒井知会委員の懸命な取り組みや熱意あふれる発言に会場が共感と感動に包まれました。

4 閉会挨拶

 最後に,千葉県弁護士会齋藤和紀会長より,閉会の挨拶がありました。齋藤会長は,冒頭で1989年に当連合会は外国人の就労と人権というテーマでシンポジウムを開催したことを振り返られ,その後,23年間で大きく状況が変わり新たな問題状況が生じている中で,問題は弁護士へのアクセスに集約されること,困難を強いられている外国人に対し,弁護士,弁護士会は何をすべきなのかが本シンポジウムを貫くテーマであり,個別の弁護士の活動にとどまらず,環境づくりと体制の構築が弁護士,弁護士会に求められていることが本シンポジウムで明らかになったと総括されシンポジウムを締めくくられました。

5 大会宣言

 シンポジウムに引き続いて行われた定期大会において,外国人の人権に関する宣言案が議題となり植竹和弘委員長の趣旨説明に引き続き討論が行われ,外国人の直面する困難の解決のため,関係諸機関に施策の実施を求めるとともに,当連合会も全力を挙げて取り組む旨の宣言が採択されました。今後は,外国人の人権救済委員会を中心として,具体的な取り組みを進めてまいります。

6 シンポジウム報告書

 2011年7月からシンポジウム委員会が取組んできた調査・研究の成果をまとめた報告書は,明石書店よりテーマと同名のタイトル「外国人の人権-外国人の直面する困難の解決をめざして」で刊行され,当日参加された会員に配布されるとともに,10月1日に出版されました。現在の外国人の人権を巡る諸問題が網羅的に取り上げられ,実務的なノウハウも盛り込まれた書籍です。是非,会員の皆さんにご活用いただきたいと思います。

PAGE TOP