関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

シンポジウムシンポジウム

平成26年度 自己決定権と現代社会~イレズミ規制のあり方をめぐって~

平成26年度シンポジウム委員会
事務局長 篠﨑 和則(茨城県)

1 はじめに

写真:パネルディスカッションステージ

 (1)平成26年9月26日(金),茨城県のつくば国際会議場大ホールにおいて,「自己決定権と現代社会~イレズミ規制のあり方をめぐって~」をテーマとするシンポジウムが開催されました。シンポジウムに関わった者として手前味噌的なところもありますが,裏話なども交えてご報告させていただきます。

(2)当日は,後藤直樹茨城県弁護士会会長の開会挨拶の後,若旅一夫理事長の主催者挨拶があり,平年通りシンポジウムが始まりました。
 しかし,今年のシンポジウムは,その刺激的なテーマからも予想されるように,平年通りではない,不思議な世界が繰り広げられることとなりました。
 司会の千葉真理子バックアップ委員(茨城県)と前澤優也バックアップ委員(茨城県)のやり取りは,ユーモアに溢れる絶妙のものでした。司会者は単なる進行役ではなく,個人の感想も交えながら議論をリードしてゆく役割を担ってくれました。あまりのコンビネーションの良さに2人は夫婦ではないかと思った方もあったようですが,そうではありません。

2 基調講演

(1)基調講演は熊本保健科学大学学長の小野友道先生でした。
 小野先生は,元熊本大学医学部長で皮膚科のお医者様です。皮膚科医として活躍する一方でイレズミに関する研究もされ,「いれずみの文化誌」という著書をお書きになっています。この書籍を私が手にとったことがそもそもこのテーマが選定される契機となりました。

(2)小野先生は,パワーポイントで実際の写真や文献などを示しながら,イレズミの文化的歴史的な背景について,医学の知識に裏打ちされた適格な目で表現され,そもそもイレズミというものがどのようなものなのかについて,私たちに分かりやすくレクチャーして下さいました。
 話題は魏志倭人伝から東京オリンピックにまで及び,一般参加を含む420名あまりの参加者も話に深く引き込まれている様子でした。

3 部会報告

(1)基調講演に続き,各部会から報告がありました。
 まず最初は文化人類学部会の奥野雅嗣委員(山梨県)と山際誠委員(山梨県)から,イレズミの歴史や文化について詳細な報告がありました。パワーポイントでアイスマンの写真が示されたときのインパクトは相当なものであったと思います。また,諸外国のイレズミ文化にも話題が及び,まさにイレズミをめぐる歴史と文化を学ぶことができたと思います。
 この部会が担当した部分の報告書は読み物としても非常に読み応えのあるものとなっています。

(2)部会報告の2番目は現状調査部会からでした。
 シンポジウム委員会では,今回,一般の男女1000名にイレズミに関するアンケート調査を行いましたが,その結果について板橋喜彦副委員長(第一東京)から報告がありました。やはり一般の方のイレズミに対するイメージはあまり好意的ではないということが分かりました。このアンケートについては,後半のパネルディスカッションで,イレズミ研究者の山本芳美教授(都留文科大学)からも大変貴重な調査であるとのお褒めの言葉をいただき,5年後10年後にもう一度やって欲しいとの発言がありました(無理です)。
 その後,笠本秀一副委員長(群馬)から,大阪で開催されたイレズミイベント(大坂墨祭)についてのレポートがありました。イレズミを入れている人の中に入ると,イレズミのない自分が異質な存在のように思えるとの発言は,よくよく考えると深みのある言葉です。

(3)部会報告の最後は憲法法令部会でした。
 イレズミの憲法上の位置づけや,私人間効力の問題,法令上どのような規制があるかなどについて田村義明委員(埼玉),一杉泰博委員(静岡県),菊池淳哉委員(新潟県)の3人の委員の掛け合いを通じて報告がなされました。憲法論については,司法試験時代を思い出すような懐かしさを感じた方も多かったのではないでしょうか。イレズミは憲法13条により幸福追求権の1つとして保障されるが,およそ人権たるものは公共の福祉,他者の権利との衝突が問題となり,無限定に保護されるものではないとの議論は,かつて髪型や服装などについて議論されていたものと似ています。しかし,消すことのできないイレズミだけにパターナリスティックな規制も考えられるという観点もあり,報告にも苦労がしのばれました。
 憲法論となると,味気ない報告になりがちですが,3人の掛け合いというスタイルをとることで,参加者を飽きさせない工夫がなされていたように思います。
 この部分こそが,弁護士がシンポジウムをする最大の見せ場でもあった訳です。

4 パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは,小野先生に加えて山本芳美教授(都留文科大学)にもご登壇いただきました。山本先生はイレズミ研究の第一人者であり,イレズミ関連の多数の著書がある方です。文化人類学者の立場から安易なイレズミ規制に警鐘を鳴らすとともに,日本人は今後,イレズミに対する考え方を変えて行かなければならないとの発言をいただきました。
 そのほか,遠藤俊弘部会長(茨城県)からは,憲法上の問題点の指摘と法規制の有り方が述べられました。イレズミを直接的に規制することは難しいが,青少年の保護や暴力団対策という観点からの一定の規制は必要ではないかとの趣旨の発言がありました。鮎川愛バックアップ委員(茨城県)からは,各種判例の紹介などがありました。裁判所のイレズミに対する見方はかなり厳しいものがあるとの指摘がありました。
 話題はイレズミ除去の問題にも発展し,小野先生からは除去の方法の紹介と,いずれの方法によっても完全に元の状態に戻すことは困難であるとの発言をいただきました。

5 総括

 阿久津正晴部会長(茨城県)から,委員会として一方の意見を支持することはないが,このシンポジウムがイレズミ規制の問題について参加者一人一人が真剣に考える契機となれば幸いであるとの総括の挨拶があり,シンポジウムは無事に終了しました。

6 最後に

 今年度はシンポジウム関連の大会宣言をしないという選択をいたしました。そのため,一方の立場に与すること無く,様々な意見を取り上げることができたと考えております。このような決断を支持して下さった若旅理事長をはじめとする理事の先生方と,テーマ選定を受け入れて下さった栃木敏明理事長をはじめとする前年度理事の先生方に感謝いたします。
 理事,委員,事務局が一体となり,本年度のシンポジウムは大成功に終わった旨,ご報告させていただきます。ありがとうございました。

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