関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

シンポジウムシンポジウム

平成27年度 高齢者の財産活用と身上配慮~快適なシニアライフのために~

平成27年度シンポジウム委員会
委員長 小此木 清 (群馬)

1 平成27年度関弁連シンポ「高齢者の財産活用と身上配慮~快適なシニアライフのために~」

写真:平成27年度関東弁護士会連合会シンポジウム

(1)今,このシンポが必要だった。
 弁護士は,その努力により,「裁判業務」から「法律業務」へと,その業務と活動領域を拡大してきた。しかし現状,自らの領域とされた法律業務における法的サービス分野を開拓できていない。その法律業務の一つである高齢者・障害者をめぐる諸問題は,弁護士・弁護士会が,組織的に取り組まなければならない活動分野である(「私たちはこれから何をすべきなのか:未来の弁護士像」金子武嗣著)。

(2)このような問題意識のもとで,平成27年度関弁連シンポ「高齢者の財産活用と身上配慮~快適なシニアライフのために~」を実施した。

2 基調講演・・・超高齢社会における財産管理問題

 シンポの基調講演は,能見善久教授による「財産の管理・活用のための制度比較」であり,要点は以下の内容となる。
 高齢者のための適切な財産管理のニーズに応えるため,委任(代理)と信託の制度がある。高齢者の多様なニーズに応えることができ,かつ利用者の保護に厚い仕組みが,目下,必要となっている。
 財産管理のニーズに応えるという点では,委任(代理)と信託の制度が最も汎用性があり,可能性がある。
 委任も信託も判断能力の低下や自分の死後も財産をコントロールできる方法という意味では共通点がある。ただ,身上監護に対応できるかという点が異なる。信託における財産管理では,予め決まったとおりに,本人に金銭を定期的に交付し,必要な支払をすることはできるが,交付された金銭をどう利用するかとか,本人の意思を踏まえて,本人の生活をどのように支援にしていくかというところまでは対応が出来ない等の相違はある。

3 パネルディスカッション・・・ホームロイヤーについて

 委任(代理)を職務とする弁護士は,高齢者の適切な財産管理にいかに取り組むべきか,ホームロイヤーについて検討した。

(1)弁護士が,高齢者の方々に関わる段階として,60歳代・70歳代の元気なときを想定している。なぜなら,その時代こそが高齢者と弁護士との信頼関係を築き上げるに必要なときと考えたからである。
 我々がホームロイヤーとして,高齢者の日常の法律問題を解決し,信頼関係を築き上げることで,高齢者の方々の財産活用や身上配慮に携わることが可能となる。そのうえで,任意後見や信託の仕組みを活用すべきである。任意後見や民事信託の前提となるホームロイヤーとは,かかりつけ医の弁護士版,「かかりつけ弁護士」である。

(2)後見に至る前に
 現在の法定後見制度は,本人のためというよりも,周りの家族のための制度であり,本人の財産をいかに保護するかという点が中心となっていて,本人の意思が尊重される支援や本人が自分の財産を使って充実した生活を送ることができるか,という点は二の次になっている。
 しかしながら,本来,判断能力が不十分となっても,自分のことは自分で決める,自分の財産は自分のために使うということができなくてはいけない。
 現実の問題として,軽度の認知症で,特に独り身の方の場合,銀行側が通帳の再発行などを拒絶するケースがある。将来の判断能力の減退に備えて,準備をすることで有効的なものは何があるか。
 あらかじめ第三者に代理権を授与しておく方法や信託を利用するため,ホームロイヤーを活用することである。

(3)法定後見の場合,今,1000万円以上など,多額の預金を有しており,それが日常生活に使われない預金である場合には,後見人の不正を防止するために,後見支援信託が進められているが,地域の金融機関としては,この点についてはどのように考えるか。
 地域金融機関側は,営業区域内の高齢者の預金が地域外に流出することは忸怩たる思いを持っている。
 信用金庫業界では,例えば,東京都品川区に店舗をおく5つの信用金庫が主体となって,一般社団法人しんきん成年後見サポートが設立され,信用金庫の地域貢献という観点から,地域の中で,高齢者の皆様の財産管理や身上監護を担おうとする具体的な取組みが行われている。
 こうした動きを踏まえ,地域金融機関としても,弁護士会と協議の上で,後見支援信託に代わるものとして預金の払戻しに一定の条件を付すこと等に関する協定を締結するなど,地域の中で高齢者の財産管理等を行う仕組みを構築することについて,積極的に検討していく考えを持っている。
 また,各金融機関の足並みのそろった円滑な対応を確保する観点から,弁護士会側において,協定に際して共通の定型書式による契約書を策定すべきである。
 社会全体で高齢者を守るという観点から,預貯金規定などの約定内容の工夫,金融機関内部の事務手続き等の改善などの検討が必要になってきている。

(4)ホームロイヤーは,どのように身上配慮に関与していくべきか。
 特に高齢者本人の意思決定を支援していく視点からは,例えば様々な選択肢の中から,本人にとってもっとも適切な住まいを本人と一緒に選ぶということが必要になってくる。そのために,ホームロイヤーの職責を果たすためには,福祉分野に関する最低限の知識や情報をしっかり身につけていく必要がある。社会福祉士やケアマネジャー等の福祉専門職と連携できる関係を作っていく必要がある。また,定期的な面談など,本人とコミュニケーションをとる機会をしっかり取ることをこれまで以上に意識する必要がある。これまでは,弁護士は財産の管理はするけれども,本人の面談や福祉分野との連携については苦手にしていたが,望まれるホームロイヤーであるためには,この点を意識してしっかり対応していくことが非常に大切になってくる。

4 ホームロイヤーにおける高齢者の財産活用と身上配慮について

(1)ホームロイヤーは,適切・必要な財産管理行為ができるかどうか(柔軟性)。
 ホームロイヤーでは,高齢者本人の意思・期待を受けた身上配慮が可能となる。ただ生活するだけの財産管理ではなく,高齢者本人が快適なシニアライフを送るための財産活用と身上配慮が可能となる。例えば,診療契約や入院のための契約は,ホームロイヤーが代理可能である。
 例えば,身体への侵襲を予定する手術などについては,一身専属的行為であるため,本人の医療同意を必要とする。このような医療同意についても,ホームロイヤーが事前指示書を得ておくことで,医療機関側から尊重を受け,手術を可能とすることができる。

(2)次に,ホームロイヤーは,高齢者本人の意思を十分に反映させることができる仕組みである。
 第一に,指図権を有する本人が,信頼できるホームロイヤーを選任できる環境が必要である。
 そのために,判断能力ある60歳代から,月5,000円あるいは10,000円で日常の法律問題を相談しつつ,本人とホームロイヤーとの信頼関係を築き上げていくことが前提となる。つまり,ホームロイヤーを雇おうとする利用者本人が,自身で様々な情報を取得し,分析し,安心して依頼できる弁護士をシビアに選択できなければならない。弁護士会は,高齢者がホームロイヤーにアクセスできる仕組み(ホームロイヤーバンク)を供給することが必要となる。
 第二として,受任する弁護士の資質の問題がある。
 弁護士は,高齢者の期待に添った仕事と途中で放り出さない約定のもと,利用者の信頼を守っていく不断の努力が求められる。定期的な研修受講等により,高齢,福祉分野の法的実務に精通する努力が必要となる。
 第三として,委任者と受任者任せでは限界があるので,弁護士会において受任者を支援・監督し,定期的な報告,助言を受ける仕組みを構築しなければならない。

(3)ホームロイヤーが高齢者本人に対して不適切な行為を行う場合に対することの抑止の仕組みが十分かどうか(抑止)。
 抑止の仕組みについて,事前・行為時・事後の各観点から検討する。
 ①事前の観点からは,ホームロイヤーを養成・支援する弁護士会は,ホームロイヤー利用者が,自分に適したホームロイヤーを選択できるよう,個々の弁護士や弁護士会に関する適切な情報開示等のシステムを構築すべきである。
 ②行為時の観点からは,さらに,弁護士会は「ホームロイヤーが不適切な行為を行なわないようにするための抑止の仕組み」を構築すべきである。
 弁護士会は,社会から求められているコンプライアンスの要請や,良質なホームロイヤー(弁護士)の品質の管理の要請に応えなくてはならない。これが不十分だと,組織の信用を失ってしまうことになる。弁護士会が,懲戒権を持って所属会員を規制する唯一の団体である以上,会員の非行は,その規制権能の失敗である。
 ③弁護士会から推薦を受ける弁護士は,当該弁護士会に対して,ホームロイヤー業務について報告し,調査を受忍しなければならないなどの契約を締結する必要がある。
 弁護士会は,ホームロイヤーを利用する高齢者が,ホームロイヤーから不適切な行為を受けた際には,利用者本人が苦情を申し出る能力が減退している状況にあるという特色を有していることを,肝に銘じるべきである。

(4)ホームロイヤーが不適切な行為を行った場合の救済
 弁護士会は,ホームロイヤーが不適切な行為を行った場合,その不祥事に対して,養成支援した責任において,一定額の被害補償の仕組みを検討すべきである。
 例えば,高齢者の財産をホームロイヤーが横領した場合,故意行為ゆえ,弁護士賠償保険の適用外となる。それゆえ,過失責任のみならず故意担保特約を締結し,不祥事に対する保険対応により,弁護士会推薦ホームロイヤーと個別のホームロイヤーとの差別化となる。
 弁護士会が推薦する以上,ホームロイヤーの消極面を今後フォローし,積極的に活用していくべきであり,弁護士会が責任を持って,いわば高品質のホームロイヤーを普及すべきである。

5 シンポのまとめとして

弁護士の多くが,ホームロイヤーとして医療・介護関係者と連携し,高齢者の方々を継続的かつトータルに支援することを学ぶことで,
 ①従来の成年後見による財産管理だけではない高齢者の身上を配慮することに目を配ることができるようになる。
 ②さらに,ホームロイヤーで,多くの高齢者と関わった弁護士は,高齢者を支援する担い手不足を肌で実感する。そこで,新たな高齢者支援の担い手として市民後見人を養成支援する専門職になってくれるであろう。
 ③そして,ホームロイヤーが高齢者と判断能力ある段階で接点を持つことにより,必要があれば民事信託を選択し,本人・関係者に質の高い生活を提供することができよう。
 ④ホームロイヤーとして,身上配慮に目を配ることを学んだ多数の弁護士が,任意後見人・法定後見人としても活動することになり,財産管理だけではない身上に配慮できる,すなわち意思決定支援ができる,高齢者のための,真の権利擁護が可能となってくるはずである。

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