関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

シンポジウムシンポジウム

平成28年度 医療と子どもの権利~子どもの成長発達と自己決定~

平成28年度シンポジウム委員会
事務局長 石井 信行(栃木県)

写真:平成28年度関東弁護士会連合会シンポジウム

1 はじめに

 9月9日(金)午前10時より,栃木県日光市の藤原総合文化会館において,「医療と子どもの権利~子どもの成長発達と自己決定~」をテーマとして,平成28年度関弁連シンポジウムが開催され,栃木県弁護士会会長の開会宣言,江藤洋一関弁連理事長の挨拶に始まり,基調講演,部会報告及びパネルディスカッションの3部構成で進められました。以下,内容について報告させていただきます。

2 基調講演

 講師は,昭和大学大学院保健医療学研究科准教授の副島賢和さんで,テーマは「病気の子どもになぜ教育が必要なの?~涙も笑いも,力になる~(院内学級の子どもたちが教えてくれた大切なこと)」でした。副島さんは,病院内に設置されたいわゆる院内学級の教師として長い間入院中の子どもと接してきた経験から,医療を受ける子どもが患者としてもつ思いや感情,また,子どもの成長発達のために大人は何をなすべきかについて,ユーモアをたっぷり交えながら,参加者の心をゆさぶる感動的な話をしてくださいました。医療を受ける子どもの権利の問題を感情として理解することができ,本シンポジウムの基調講演としてふさわしい内容でした。

3 部会報告1 病気の子どもの教育と保育

(1)  前半は教育の問題を取り上げ,学校における医療的ケア,入院中及び在宅療養中の子どもの教育,学籍異動,高等学校段階での教育の問題について,委員から報告がなされました。冒頭には,日常的に痰の吸引を必要とする医療的ケア児がバスケットボールを手に持ち,小学校への入学を楽しみにしている元気な姿が映像で流れましたが,現実には,医療的ケア児は,学習能力・運動能力が十分にあっても,医療的ケアの対応ができないという理由で,通常の小学校の入学を拒否されるということでした。各問題についての報告を通じて,病気の子どもの教育環境の整備が不十分であり,教育を受ける権利が実現されていない現状があることを実感しました。

(2)  後半は保育の問題を取り上げ,自治医科大学とちぎ子ども医療センター主任保育士の中村崇江さんを助言者としてお招きし,入院中の子どもの成長発達における保育の重要性,病院における保育士の仕事と専門性及び病院での保育士不足等についてお話をうかがいました。委員からは,入院中の子どもに保育を受ける権利が保障されること及び保育を受ける権利の実現のためには医療機関における保育士数を増やす必要があることなどについて報告があり,入院中の子どもの保育について,その重要性と現在抱えている問題点を理解することができました。

4 部会報告2 療養環境と子どもの権利

(1)  第一幕では,子どもの処置の際の親の付き添いについて,病院のルールで認められないとする医師と付き添いを希望する子どもと母親のやりとりを寸劇で描き,処置における親の付き添いの問題状況を明らかにした後,委員から,委員会で実施したアンケート調査の結果を踏まえ,処置における親の付き添いの重要性について報告がなされました。

(2)  第二幕では,仕事を終えた父親が子どもの誕生日を祝うために入院先病院に面会を求めたところ,面会時間ではないとして冷たく拒否される場面を描く寸劇が行われ,委員から,面会制限を設けない病院があることが紹介され,面会制限の撤廃が可能であり,また,必要であることが説明されました。

(3)  第三幕では,静岡県立こども病院勤務の認定チャイルド・ライフ・スペシャリストの桑原和代さんをお招きし,子どもへの処置の前に行うプレパレーションが実演されました。桑原さんのプレパレーションによって,処置を拒絶していた子どもが納得して主体的に臨もうと変わってゆく姿をみて,わかりやすい説明を受けることの重要性を実感しました。
 最後に,全体のまとめとして,処置における親の付き添い,面会制限の撤廃及びわかりやすい説明といった子どもの療養環境に関わる問題が,単にそうしたほうがよいというレベルのものではなく,子どもの権利条約に定める権利の問題であることが述べられました。

5 パネルディスカッション

 「子どもの医療への主体的参加」をテーマとし,パネリストとして,医師の立場から獨協医科大学医学部小児科学教授の黒澤秀光さん,子どもの立場からチャイルド・ライフ・スペシャリストの桑原和代さん,法律学の立場から早稲田大学社会科学総合学術院准教授の横野恵さんにご参加いただき,子どもの説明を受ける権利,医療行為への同意について議論がなされました。
 冒頭に,子どもの同意をめぐる医師と親・子どもの葛藤を描く寸劇が行われました。子どもへの説明や同意の難しさを問題提起するものでしたが,コメディー風に作られており,委員の秀逸な演技もあって,終始笑いが絶えませんでした。
 パネルディスカッションでは,同意能力の有無にかかわらず子どもが理解できるように説明する必要があること,子どもの同意能力は年齢によって画一的に区切るのではなく,本人の能力や置かれている状況,実施される医療行為の重要性なども勘案して個別的に判断する必要があることが確認されたように思われます。同意に関しては,事例を挙げ,医療的処置について親と子どものいずれか一方が同意しない場合にどう対処すべきかについても議論がなされ,各パネリストから貴重な示唆をいただきました。

6 最後に

 今回のシンポジウムは,医療と子どもの権利という普段我々にとってなじみの薄い問題を扱いましたが,寸劇を用いるなど参加者の理解を促すための工夫が随所でなされており,医療を受ける子どもが様々な制約を受けていること,そして,それが子どもの権利に関わる重大な問題であることをご理解いただけたのではないかと思います。

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