関東弁護士会連合会は、関東甲信越の各県と静岡県にある13の弁護士会によって構成されている連合体です。

シンポジウムシンポジウム

2023年度 刑事加害者家族の支援について考える

2023年度シンポジウム委員会委員長 長沼 正敏(埼玉)

1 本シンポジウムの狙い

 9月29日(金)ロイヤルパインズホテル浦和において本シンポジウムを開催しました(会場参加とWeb配信のハイブリッド形式)。会場参加が282名、Web参加が101名でした。
 日本社会では家族の一員が犯罪を犯すと、その家族にも重い責任があるかのような見方をされる傾向が顕著にあります。非難の矛先を向けられた被疑者・被告人・(元)受刑者[以下、「刑事加害者」といいます。]の家族は反論を許されず、転居、失職、転校などそれまで築き上げてきた生活の崩壊を余儀なくされます。犯罪被害者への被害弁償を求められることもあり、多大な経済的負担を強いられます。そうでありながら、家族であるがゆえに刑事加害者の監督責任を押しつけられ、精神的に追い詰められ自殺に至る者もいます。
 刑事加害者家族の支援については、2016年、2022年に東北弁連においてシンポジウムが開催されていました。全国最大規模(全国会員の61%の会員数です)の関弁連でもテーマとして取り扱い、刑事加害者家族のおかれた実態を確認して会員の再認識を図るとともに、国・地方公共団体へ制度運用の改善・法律の制定を求めていく機運を高めることを狙いとしました。
 参加者が刑事事件に取り組んでいる会員ばかりでもないことも想定し、できるだけ分かりやすい内容のシンポジウムを実施しようと試みました。


2 部会報告

 シンポジウム委員会では、「実践部会」と「制度部会」それぞれで本テーマに沿った学習・調査を行い、シンポジウム報告書(189頁)を作成しました。シンポジウム当日は、時間の制約もありました。そこで、報告書のガイダンス的な発表を行い、参加者に「報告書を後で読んでみよう」と思って頂けるような発表を目標にしました。登壇者も委員36名の中から4名に厳選しました。

(1)実践部会

①加害者家族インタビュー
②マスコミ対応
吉津和輝副委員長(茨城県)
③医療・福祉の専門家による刑事加害者家族支援の実践
④弁護実践
神林美樹副委員長(第一東京

(2)制度部会

①制度の現状と課題
金子直樹委員(埼玉)
②支援の内容
山崎 健副委員長(東京)

 地元のテレビさいたまでは、シンポジウム当日夜のニュース番組で、部会報告の場面、袴田事件の袴田巌氏の姉であるひで子氏へのインタビュー動画が報道されました。
 アンケート結果では、「コンパクトで良かった」という意見もいただく一方、「わかりにくかった」「もう少し時間をかけて欲しかった」という意見もいただきました。報告者4名をさらに2名に絞って、報告を絞る形も今後の課題かと思った次第です。
 シンポジウム報告書(189頁)は、関弁連Webサイトに掲載されていますので、ご興味をお持ちになられた方は、読んでいただけますと幸いです(インターネットの性質上、家族インタビューの項目は削除しております)。


3 基調講演

 刑事加害者家族支援のパイオニアである遠藤凉一弁護士(山形県)による基調講演が行われました。遠藤弁護士からは、第1、家族支援に関わるようになったきっかけ。第2、家族の「被害者性」。第3、刑事弁護の中で、できること、できないこと。第4、山形県弁護士会の取組状況、第5、東北弁連の取組について、講演いただきました。
 「加害者家族も被害者なんだ」、「家族が求めているのは普通の暮らしなんだ」という遠藤弁護士の発言は、特に印象に残った言葉でした。



4 パネルディスカッション

 休憩を挟み、シンポジウム後半は、パネルディスカッションが行われました。
 パネリストには、ドキュメンタリー監督の笠井千晶氏、月刊『創』編集長の篠田博之氏、大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳氏、遠藤弁護士、そして、コーディネーターには、清水勉委員(東京)が並びました。
 各パネリストの取組について報告をいただいた後、(1)弁護士が見落としてきたことはないか、(2)なぜ、加害者家族は被害者として問題とされてこなかったのか、(3)被害者保護・支援との対比で語るべき問題なのか、(4)私たちは、何をすればいいのか、についてディスカッションが行われました。
 多方面からの意見が参考になるとともに、パワーポイントで紹介された「林真須美氏宅の落書き」や「松本智津夫氏宅の前のオウム反対!!出て行け!!の看板」の写真は、刑事加害者家族にも向けられた世間の暴力を克明に伝えてくれました。


5 終わりに

 参加者のアンケート回答を分析したところ、「刑事加害者家族支援について、弁護士会はどう取り組むべきでしょうか」の質問に対し、「積極的に取り組むべきである」の回答が、88%(95/107)を占めました。シンポジウムは課題もありましたが、大成功だったと思います。
 刑事加害者家族支援のための取り組みが、今後、日弁連、各弁護士会、各弁連においても行われることを願ってやみません。
 シンポジウムに御協力をいただいた皆様方に心より御礼申し上げます。


シンポジウムに際し担当のシンポジウム委員会が作成した報告書と、当日の反訳文を掲載しますので、是非ご参照ください。
なお、こちらに公開した報告書は、シンポジウム当日に会場で配布した冊子版とは異なり、第2章「第1 刑事加害者家族へのインタビュー」の掲載を省いたものとなりますのでご諒承ください。
報告書、反訳文いずれも内容等につき変更はご遠慮ください。

シンポジウム報告書(PDFファイル / 4.26MB)

シンポジウム反訳文(PDFファイル / 692KB)

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